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鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その39】

「命の源流たるマナよ、その慈愛の光、我が手に集え。エクストラヒール!!」
俺は聖水の力を借りて、通常使用するよりも上位の治癒の魔法を発動させた。
 我々騎士は魔法は専門外だ。十字騎士のように簡単な魔法の教育を受ける部隊もあるが、その大半は緊急の応急手当用の処置だ。
 本職の司祭や呪術師のそれとは比べ物にもならない。
 それでも聖水の力で強化された治癒の魔法なら止血剤の代わりにはなるはずだ。
 俺の呪文が魔法の発動を招き、掌からやんわりと暖かい光が漏れ出す。
 その光は少年のわき腹の傷に集まり、非常にゆっくりした速度でその傷を塞ぐ……はずだった。
 様子の異変に気が付いたトウマが覗き込んでくる。
「なんか……手が光ってるだけで傷が塞がってないんじゃね?こういう手品見たことあるぜ」
「おかしいな……通常の治癒魔法よりも上位のやつなんだけどなぁ……」
トウマの言葉に困惑しながら俺は掌を傷口に近づけた。
 確かに俺は魔法は専門野外だ。だが、治癒の魔法で傷口の出血を抑える位の事はできるはずなんだが……。
 度重なる戦闘で、自覚のないうちに集中力を切らしているのかもしれない。
 掌の光が小さくなる。傷口にかけた聖水の効果が切れかかっているようだ。
 俺は諦めて傷口から手を放した。
 効果のない魔法のために徒に傷口を曝け出しておくよりは、ガーゼか何かで傷口を保護する方が先決と判断したからであった。
「すまん、術には少し自信があったんだけど……」
「いえ、おかげで……少し楽になりました」
世辞なのか本当なのかはわからないが、そうゴウタが答えてくれるだけで幾分かは救われた想いがした。
 今度はトウマから受け取ったガーゼを傷の上に貼り、手際よく包帯で固定した。
 心臓から離れた位置から、包帯を転がすように巻いていく。
 治癒の魔法と違って、こっちの方は本当に自信があった。騎士になりたての頃はどんな奴でも、傷の手当てや包帯巻きの仕事から任されるのだ。
 だから、自慢じゃないがこの手の作業の場数だけは人に負けない自信があったのだ。
「手際といい、出来栄えといい、本物の医者みたいだぜ」
「人間一つぐらい特技があったっていいだろ。……これで、よし」
俺は包帯の端を包帯に付属していた粘着テープで止めると、手を放した。
 後は安静にしていれば出血は自然と止まってくれるはずだ。
「あ、あの、……あ、ありがとう……」
ゴウタが恥ずかしそうに礼を述べ小さく頭を下げた。
 今まで張り詰めていた空気が一瞬だけ和らぐ。
 たった二人とはいえ、生存者を保護できたのは何にも変えがたいことだった。
「カイル様、お取り込み中申し訳ありませんが……」
「どうした?」
「キャンプ北西の外郭部にレツ様とタイガ様らしき生体反応を確認しました。生体パターンから推測して、お二人だと判断して問題ないと思われます」
ベガからの報告はまさに吉報だった。
 個人的な感情を抜きにして、猫の手も借りたいこの状況で二人と合流できるのは重畳の極みといっても過言ではない。
「お二人と合流する場合、キャンプを横断する必要がでてきます。要保護者を連れてのキャンプ内の移動は彼らを危険に晒すだけでなく、身体に少なからず負担をかける恐れがあります」
確かに彼女の意見には一理あった。
 ベガが付いているとはいえ、負傷した民間人をつれての移動は彼らに負担がかかりすぎる。
 とはいえ、このままレツ達と再びはぐれるのも避けたい。リスクを伴うとはいえ、ここは思い切った判断が必要だった。
「ベガさん、貴方だけでもレツ達の元へ行ってくれないだろうか?」
「単体で移動した場合、キャンプ上空を飛行することにより合流時間は大幅に短縮されます。ですが……」
「リスクは承知している。ゾンビの方はチーコとイレーヌが何とかしてくれるはずだ。貴女には一刻も早く二人に接触して欲しい」
「了解しました。別行動の提案をお受けいたします」
「俺達は要保護者の安全を確保した後、今回の状況を引き起こした原因を討つ為にキャンプ中心部へ向かいます。できればレツ達にそのことをお伝え願えれば……」
「かしこまりました。レツ様にお会いした後、お二人をカイル様の元にご案内いたします」
「すまない、いろいろと迷惑をかける」
「キャンプ内のゾンビの配置状況を再確認……。ゾンビのコマンダーユニットは侵入者……つまりレツ様とタイガ様に対してゾンビの部隊を差し向けたようです。そのため、現在我々がいるブロックは敵の配置が手薄になっています。我々がキャンプに突入後に進んできたルートを逆に辿れば、ゾンビとの遭遇は最小限に抑えられるでしょう」
「ありがとう、何から何まで……」
「困った時はお互い様です」
ベガは、そう言って一瞬だけ人間のような笑みを浮かべると、鋼の翼を広げた。
 翼から青い粒子が発生し、重力を忘れたかのように彼女の身体がフワリと浮いた。
 ベガは方向を修正すると、鳥のように翼を広げ、一瞬にして曇りがかった空の彼方へと飛び去っていった。
「あーあ、このままベガにユダをやっつけてもらって、カッツも助けてもらえばよかったのに」
トウマが覇気のない声でそう呟いた。
 今まで敵を蹴散らしていたベガが飛び去ってしまい、不安なのだろう。
 それは自分も同じだった。だが、一刻も早くレツ達に遭遇するためにはこれが最善の選択肢だと自負していた。
 レツとベガが合流し、連携がかみ合えばユダを挟撃する事だってできる。そうすればユダの捕獲もカッツの救出もぐっと成功率があがるのだ。
「そう何でもかんでも彼女任せにできるか。それにレツ達だってゾンビと戦っているはずだ。早いうちに合流しなきゃマズいだろ」
「まあ、それもそうだけどさ……」
トウマが半ば諦めた口調で溜息混じりに答える。
「あ、あの……そのことなんだけどさ……」
俺とトウマの会話に割り込んできたのは黒髪の少年、イスケだった。
「さっきの話聞いてたんだけど、アンタ達が進んできた道を逆に辿れば安心なんだろ?」
「ああ。この道をまっすぐだ。この道の先に仲間のエルフの女性と月猫がいるんだ。二人のところなら安全だし、本格的な治療だってできる」
「だったらさ、そこまで俺達二人で行くよ」
イスケの申し出に、俺は思わず耳を疑った。
 無数のゾンビに追い回されるというイレギュラーな状況に晒されすぎて精神に異常をきたしてしまったのかと思ったほどだった。
「そんな、危険すぎる!!彼女を疑うわけじゃないが、移動中に敵の配置が変更される事だってあるんだ」
「俺達、足の速さには自信あるしさ……ついさっきまで二人でゾンビから逃げ切ってたわけだし」
「しかし……」
「それに、さっきの話じゃ他に任務があるんだろ?俺達、自分の身は自分でなんとかするから……さ?」
そう言うと、イスケは大丈夫と言いたげに笑って見せた。
 危険な状況から解放されて、もう大丈夫だと錯覚してしまっているのだろう。そういう時が一番危険だというのに。
 しかし、我々騎士の第一の使命は民衆を守る事。カッツを助け、ユダを討つという任務があるとはいえそれを蔑ろにするわけはいかないのだ。
「しかしだな……君達を放って……」
「さっきの魔法のおかげで俺も全力で動ける。だから……大丈夫」
口を開いたのはイスケと俺との会話をずっと聞いていたゴウタだった。
 確かに初めて会ったときに比べて血色も良くなっているし、嫌な脂汗も引いていた。
「ここは俺達の庭みたいなもんだから、ヤバくなったら適当に隠れるからさ。騎士サンは早く行った、行った」
そう言うとイスケは俺の肩を強く押した。
 ここまで言われると、逆に彼らを連れて戻るのが申し訳なくさえ思えてくる。
 騎士としては失格な選択肢かもしれないが、これ以上ユダの下にカッツを置いていくことはできないのも事実だった。
「……わかった。この道をまっすぐだ、危ないと思ったら無理せず隠れろよ」
「了解。ゾンビになって騎士さんと再会とかは俺も勘弁だ」
冗談を言いながらイスケは笑顔を見せた。
「では、ご武運を。行くぞ、トウマ、カッツのいる方向を」
「えっと……カッツの奴さっきから全然動いてねぇな。ゾンビに食われてなきゃいいけど……」
物騒な事を言いながら、トウマはレンズを覗き込んでカッツのいる方向を指差した。
 俺は騎士の敬礼を二人にすると、二人に見守られる中リク達を連れ立ってキャンプの中央に向かって走り出した。

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