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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その41】

 俺達はトウマのナビゲーションを頼りに、キャンプの中央部へと向かっていた。
 どうやら敵はレツとタイガに殺到しているらしい。二人の事が気にかかるが、逆にこちらにとっては身動きが取りやすい状況になってくれていた。
 それにベガが合流してくれれば、二人の身の安全が確保されるどころか、逆に殲滅戦だって仕掛けることが可能なはずだ。
 だから、あえて俺は気にするのをやめた。
 肩がぶつかっただけで崩れそうな掘っ立て小屋の中を潜り抜けながら、俺達は物見やぐらが隣接した広場らしい空間に足を踏み入れた。
 そこには一体の小さな家ほどの大きさはあろうかというドラゴンの死体が鼻の曲がるような腐臭を上げながら横たわっていた。
 その腹の上に座していたのは、銀髪の勇者……ユダだった。
「遅かったな、教団の犬ども。あの死にぞこないの野良犬二匹でも助けてたのか?」
俺達を見下ろしながらユダはそう言った。野良犬とはイスケとゴウタのことだろうか。
 俺は反射的剣を抜き構えた。リクやカイ、クウも同時に武器を構える。
「ったく、テメェらのせいで俺の野望がメチャクチャだ。エルフに月猫……挙句の果てに雷の機械ときた……いつから騎士様はそんなに節操がなくなったんだ?」
「貴様には関係のないことだ」
「……だろうな。勇者は何も考えずに戦ってればいいんだからな」
ユダはそう答えると、地面に唾を吐き出した。
 さっきから周囲を見回しているのだが、カッツの姿が見当たらない。
 物陰から我々を奇襲しようと様子を窺わされているのか、レツ達の迎撃に向かわされているのか……。
 前者ならいいのだが、もし後者なら厄介な事になる。上手くレツ達とベガが感づいて、カッツを戦闘不能に追い込んでくれればいいのだが……。
「カッツはどうした!!」
「カッツ……ああ、あの勇者のことか。そんなに報奨金が大切か?」
「報奨金?」
「知らないフリはナシだぜ。勇者が死んだら、勇者の死体と武器と引き換えで一生遊んでも使い切れないほどの報奨金が出るんじゃねーか。死体と武器が無きゃ、今までの苦労がパーになるんだろ?」
「そんな金の為なんかじゃない。俺は仲間を助けるためにここに来たんだ」
「はぁ!?勇者が仲間?頭おかしーんじゃねーの?」
ユダはそう侮蔑の言葉を吐くと、自分の頭に人差し指を指しクルクルと回した。
「勇者だって一緒に戦う大切な仲間だ。お前にはそういう仲間がいなかったのか?」
俺がそう尋ねると、ユダは膝を揺らし、顔を顰めながらあからさまに不快そうな表情を見せた。
 まるで子供が説教をされて不機嫌になっているかのような様子だった。
「あーもう、そういうキレイ事、オレサマ大きらい!!だから、今ここでその奇麗事を覆してあげよう♪出ておいでー♪」
ユダはそう言うと、その指をパチンと一回鳴らした。
 その音に呼応するように、誰かが竜の頭の影から姿を現した。
「カッツ……」
そこにいたのは、紛れもないカッツの姿だった。
 少し憔悴しているようだが、目立った外傷も見られず、思ったよりも元気な姿に俺は胸を撫で下ろした。 
 カッツは俺達の姿を見ていささか動揺しているようだった。
「カイルさん……なんで……?」
「何でって……お前を助けにきたからに決まってるだろ?」
「アンタ、弱いくせに……助けられるはずないでしょ!?」
困惑した声とは裏腹に、カッツは背中に担いだ斧を引き抜くと俺達に向けて刃を向けた。
「そんなの……やってみなくちゃわからないだろ?」
「ベガと手を組んだろ?だったら、何で彼女に俺を倒させなかったんスか!?」
「何度も言わせるな!!俺はお前を助ける為にここに来たんだ、殺すためじゃない!!」
「本当に……バカだよ……アンタ……」
構えた斧の刃先が微かに振え、カッツの眼からは一筋の涙が流れていた。
「ハイハイ、お涙頂戴なシーンはここで終わりー」
いい加減にしろと言いたげに、白けた様子でユダが手をパンパンと鳴らした。
 ユダは竜の死体から飛び降りると、カッツの肩に手を乗せた。
「それじゃあ、これからトビキリゴキゲンなゲームを始めるぜ。題して、勇者対勇者、死ぬまで殺し合い!!ん、何か文法間違ってる?」
「貴様!!」
「ルールは簡単、オレサマの勇者と、騎士様の新しい勇者のデスマッチだ。ハンデとしてオレサマは一切手を出しませーん。チミタチは何やってもいいぜ♪」
ユダは舌を出しながら俺達に中指を突き立てると、カッツのフードを掴み、一気に引き降ろした。
 勇者同士のデスマッチ……つまり、カッツとリク達を戦わせるということ。
 もし勇者と勇者が本気で戦えば……どんな戦いになるか想像も付かないが、結果だけは容易に想像ができた。
 仮にどちらかが勝利したとしても、もう片方も瀕死の深手を負うのは確実。その後の死体を奴は利用する目論見なのだろう。
「勇者に命ずる。武器の力を100%完全解放して目の前の三つ子の勇者を文字通りミンチにしろ」
ユダがカッツの耳元でそう囁く。
 その命令を聞いたカッツの身体がビクンと跳ねた。同時にカッツの顔が苦悶の表情に歪む。
「く……あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
カッツが苦しげな悲鳴を上げる。
 彼の体の周囲に白い粉雪のような空気が渦巻き始める。それらは俺達に自分の死を予感させるかのごとく、俺達の足元に流れ込んできていた。
 肌に突き刺さるような冷気が俺達の周囲を包む。鎧にうっすら白い氷がつき始めていた。
 パキパキという音と共に広場中に、巨大な霜柱が乱立し始める。
 尋常ならざる事態が起きつつある事は、実戦経験が乏しい俺が見ても明らかだった。
「カ、カイルさん……早く……早く俺を……ころし……」
「殺れ」
「ぐあああああああああああああああ!!」
ユダの非常な一言がカッツの最後の言葉を遮る。
 次の瞬間、地吹雪のような強烈な冷気がカッツの身体から放たれ、その衝撃で彼のパーカーとシャツが一瞬で弾けとんだ。
 闘気と冷気が混じった突風が容赦なく吹き付けてくる。弱い魔物なら近づいただけで凍結して絶命してしまうに違いない。
 ましてや普通の人間では近づく事ですら容易ではない。こちらは盾を構えて立っているのが精一杯な状況なのだ。
 カッツと戦う恐れがあることはある程度は予測していたが、カッツのこの力は予想に入っていなかった。
 リク、カイ、クウの三人でカッツの動きを押さえて、トウマと二人がかりで押さえつければいいと甘く考えていたのだ。
 ベガか猫、イレーヌ女史がいれば何かしらの対抗手段があったのかもしれないが、いない者を期待しても仕方がない。
 恐らくカッツはリク達を狙って襲い掛かってくるだろう。悔しいが、どう考えても俺の力ではカッツを止めることは不可能だった。
 だが、リク達とカッツが戦えば必ずどちらかが死ぬ。最悪の場合相打ちだって考えられる。
 どうすれば、どうすればいい……焦りばかりが先行して、時間だけが空しく過ぎていく。
 そんな時、三つの小さい頭が俺の目の前を横切った。
 言うまでもなく、それはリク、カイ、クウだった。三人は身体に突き刺さる粉雪など物ともせずに、カッツと対峙していた。
「リク、カイ、クウ!!凍傷になるぞ、下がってろ!!」
「カイルにーちゃん、僕達がししょーと戦う」
「ボク達が戦ってししょーの動きを止める」
「あぶないから、絶対に近づかないで」
突然リク、カイ、クウがそんなことを言うと、それぞれに己の武器を構えた。
 冷気に当てられ、身体の所々が凍り付いていたが三人は構うことなく武器を掲げる。
 三人の武器から白い光が溢れ始める。
 まさか……俺は不安を抱きながら、三兄弟が始めることを見ていることしかできないでいた。
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