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鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その44】

「どう……しよう……俺、またやっちゃった……」
カッツが声を震わせながらそう言った。
 いつもは無表情なカッツが、初めて顔をしわくちゃにして泣いているのを見た。
 ボロボロと涙を流し、鼻水が垂れていることなど気にもせず、ひたすら、ひたすら泣いていた。
「やっぱり俺なんか生きていちゃいけなかったんだ……どうせ俺は……」
その声と表情とは裏腹に、カッツは斧を杖の代わりにして身体を引きずるようにリク達の目の前へと歩み出ていた。
 カッツの眼前には氷柱に下半身を飲み込まれたカイの身体が、仰向けの姿で垂れ下がっていた。
 完全に意識を失っているらしく、カイはカッツの斧を前にしてもピクリとも反応を示さなかった。
 『死』という嫌な文字が俺の頭を過った。
 カッツはまるで断頭台の死刑執行官のごとく、その首めがけて斧を振り上げた。
 カッツの力を持ってすれば、子供の首など造作もなく切り落とせるだろう。トドメの一撃のつもりなのだろう。
 首を大きく横に振り、必死に抵抗をしているようだったが、無情にもカッツの斧は彼の頭上まで振り上げられていた。
 このままでは取り返しが付かなくなる、俺は剣を抜くと、一目散にカッツに向かった。
「カッツァァァァァァァー!!」
俺は声を張り上げながらカッツに切りかかった。
 針の制御下にあるカッツは俺の声に振り向くと、大泣きしながら素早く斧を下ろし、俺の一撃を受け止めた。
 リク達とあれだけの死闘を繰り広げたというのに、俺の全体重をかけた一撃を受けてもよろめきすらしなかった。
 これが勇者の底力なのか、それとも針の力ゆえなのか……。
「カイルさん、俺を殺してください。手遅れになる前に」
「カッツ、お前何を言っているんだ?」
「早く殺してください。でないと、このままじゃ……」
「そんなことできるわけないだろう!?」
俺が反論すると、カッツは泣きはらして真っ赤に充血した目で俺を睨み付けた。
「また俺のせいで、皆が死んじまうんスよ!!」
カッツはそう叫びながら俺を蹴り飛ばした。
 蹴りをまともに受けた俺は吹っ飛ばされ、地面を転がった。
 一瞬朝食を全て吐きそうになったが、俺は強引に朝食の残骸を飲み込むと盾を構えて立ち上がった。
 次の瞬間腕の骨が砕けてしまいそうな重たい一撃が俺の盾を襲った。
 もちろんその一撃はカッツのものだった。
「グッ!!」
俺は盾を地面に突き刺すと、そのままカッツとの力比べの体勢に入った。
 確かにさっきの一撃は強烈だった。だが、普段のカッツの一撃に比べれば幾分か弱まっていた。
 少し前まで真冬の雪山のように吹き荒れていた冷気も鳴りを潜め、ひんやりした空気が彼の周囲を漂っているに留まっている。
 リク達と戦ってカッツは酷く弱っているのは明らかだった。
 リク達のやろうとしていた事はムダではなかった。
「お願いス、カイルさん、お願いだから……」
「イヤだね。俺は絶対に諦めないからな!!」
「何で!?俺……リク達を……俺なんかのこと師匠って……嬉しかったのに、友達になれるって……でも!!」
「その友達からお前のことを託されたんだ。俺が死んでも、お前が死んでも意味がないんだよ!!」
俺は渾身の力で盾ごとカッツを押し飛ばした。
 カッツはよろめきながら俺から離れると、再び斧を構えた。
 俺は再び剣と盾を構えてカッツに突進した。俺の剣とカッツの斧が再び衝突する。
 相変わらず俺の一撃を受けてもカッツの身体は揺るぎもしなかった。まずい、このままではこちらだけがズルズルと消耗していくだけだ。
 せめてトウマの援護が……そう思ってトウマがいたはずの位置を向いたが、そこに彼の姿はなかった。
 『我ニ秘策アリ』そう書かれた紙が風に吹かれて俺の足元に引っかかった。
 ブブリィのときの実績があるから信頼には値するが……肝心な時にいない仲間を俺は心の中で恨んだ。
 何か……何か方法が……必死に打開の糸口を探していた時、ふとカイがカッツにつけた肩の傷に目がいった。
 数センチほどの切り傷がカッツの肩でパックリと口を開けていた。その中央にあったもの……。
 俺はそれを見た瞬間、声を上げそうになった。
 ブラッドマンの死体がカッツに刺したあの針の先端が、俺の目に飛び込んできたからだ。
 コレさえ何とかカッツの身体から針を取り出してやれれば……。
 だが、針は肩の傷口から僅かに頭をのぞかせているだけで引き抜くにはもう少し針を露出させなければならなかった。
 最悪、肩の傷を広げなければならないが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
「もう、もうやめてください……!!」
カッツは引きつった声でそう叫びながら俺の剣先を押し返し、素早く左足のソバットで俺を蹴り飛ばした。
 地面に叩きつけられ、一瞬気が遠くなるが俺は咄嗟に自分の舌をわざと噛んで意識が身体に縛りつけた。
 カッツの追撃を予想して盾を構えるが、予想に反してカッツは何も仕掛けてこなかった。
 俺が盾の隙間から彼を見ると、カッツは肩で大きく息をしながら動こうとはしなかった。 
「カッツ……」
「カイルさん、今から少しの間だけ針に逆らってみます。俺が合図したら、一突きで心臓を貫いてください。そうすれば……」
「馬鹿野郎!!そんなことしたらお前が!!」
「それ以外にどんな方法がある!!ここでアンタが死んだら……俺は……」
「方法ならあるさ」
「え?」
「その一瞬、俺に預けろ」
俺の言葉に、カッツはきょとんとしていた。
 そんな言葉が来るとは思っていなかったのだろう。
「一瞬だけ針の力に抗ってくれ。その一瞬でお前を助ける」
「針は俺の身体の奥深くに刺しこまれたんスよ!?どうやって……」
「目、動かせるか?カイが付けた肩の傷を見てみろ」
「あ……」
ユダに聞き取られないように注意を払いながらカッツに肩の事を告げた。
 カッツは必死に目だけを動かして自分の肩の傷を見て、小さな声を上げた。
 ユダに気づかれてしまったかと思い、奴に目を向けたが奴はドラゴンの上で身を乗り出して俺とカッツの戦いに見入っていた。
 幸いにもどうやら会話は聞き取られなかったようだった。
「俺がその針を取ってやる、だから俺を信じてくれ」
「でも……」
「俺を信じろ」 
俺はそれ以上何も言わなかった。
 横目で氷付けになったリク達の姿を見た。彼らは氷の柱の中で指先一つ動かなかった。
 俺の位置からでは彼らが生きているのか、死んでいるのかすらわからない。
 リク達が死んでいたら……そう考えるだけで怖くなって、目から涙がにじみ出てきた。
 でも、ここで俺がうろたえたら、リク達が命がけで作ったこのチャンスが無駄になる。
 だから俺はリク達のことをできるだけ考えないでいた。
 カッツは困惑した様子で俺を見ていたが、やがて落ち着きを取り戻したのか、ゆっくりと俺の目を見据えた。
「ったく、その馬鹿さ加減……レツさんとタイガのが伝染したんじゃないスか?」
「……認めたくないがな」
「俺が傷を広げます。後はお願いします……おああああああああああああ!!」
カッツは大声を張り上げながら斧を振り上げた。
 針の支配から逃れられなかったのか!?そう思った瞬間……カッツはカイが付けた傷口に斧を叩きつけていた。
 カイに付けられた傷がさらに大きく広がり、傷口から血が吹き上がった。
「ぐ……あ……」
「カッツ!!」
「今ス、カイルさん!!」
自らつけた傷に指をねじ込み、カッツはそう叫んだ。
 その傷の中央には、彼に刺しこまれた赤黒い針がさっきよりもはっきりと頭を出していた。
 あれなら指で摘んで引っ張れば引き抜くことができる。俺は何も考えず、カッツに向かって走り出していた!!
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