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鎌使いの文章倉庫

□ 小説外伝【Long long ago】 □

Long long ago その8

 俺達(つっても、俺は巨大化したガウガウに咥えられて運ばれただけなんだけど……)は海岸線にたどり着いた。
 ガウガウが口を離し、俺はやっと地面へと降ろされた。
 俺のタンクトップは俺の全体重を支えたせいでヨレヨレに伸び、ガウガウのよだれでドロドロになっていた。
 さすがにコレはもう着れないよな……俺は仕方なくタンクトップを脱ぎ捨てた。
 どうせ試験の前に新しい服を買う予定だったんだから、それが少し早まっただけと自分に言い聞かせて……。
「あ……」
厄災の子が引きつった声を上げる。
 彼の見ている方を向くと、海岸には既に多数の魔物たちが出現していた。
 町の方からは避難を促す声と悲鳴が混ざって聞こえてくる。
 火の手が上がっている様子はないから、振り切った魔物が暴れてる……って訳ではないようだ。
「ヘキンス!!アミル!!」
先に到着していたディノーズが声を上げる。
 彼が向いた先に二人の姿はあった。だけど、それは俺の予想の中では最悪に近い部類の状況だった。
 デーモンやガーゴイル、デーモンといった魔物が蠢く海岸の中央、魔物たちに取り囲まれるようにヘキンスとアミルの姿があったんだ。
 二人は互いに背中を預け、周囲の魔物とにらみ合いの状況になっていた。
 手には白い布に包まれた武器らしきものを握ってはいたけど……30匹は優に超えるこの状況では何の意味もないだろう。
 イレーヌさんは……俺は海岸を見回したけど、イレーヌさんらしき姿はなかった。
 これだけ魔物が密集していれば、イレーヌさんの魔法で一網打尽にすることも不可能じゃないのに……。
「王様ー、ボク達は大丈夫だよっ」
俺達に気が付いたアミルが手を振る。
 バカ、下手に動いたらそれだけで魔物を刺激しかねないんだ。
 一斉に襲われたら、もう本気でどうしようもないぞ!!
「ダメだ、このままじゃ!!」
そう叫んだ瞬間、厄災の子はガウガウの背中から飛び降りた。
 厄災の子は俺の目の前を横切ると、屋根から飛び降りると海岸にひしめいている魔物の群れの近くに着地した。
「やらせるかぁぁぁぁぁ!!」
厄災の子はそう叫ぶと、右手に巻かれていた白い包帯を解き、空中に投げ捨てた。
 右手に銀色に輝く物が見える。
 それが何なのかわかったとき、俺は思わず息を呑んだ。
「勇者の……武器!!」
厄災の子の右手に装備されていた物……それは白銀に輝くガントレットだった。
 手の甲のあたりに円盤状のガーターのようなものがついている、少し変わった形状のガントレットだ。
 あの光り輝く銀色の武器……見間違える筈が無い、あれは勇者の武器だ!!
「ああああああああああああ!!」
厄災の子は雄たけびを上げながら屋根から飛び降りると、一番近くにいた魔物の肩に飛び乗った。
 肩に飛び乗るのと同時に厄災の子の武器が激しい光を放つ。
 その光はガントレットの周囲に集まり、厄災の子の半身を覆えるくらいの光輝く盾へと姿を変えた。
 突然現れた厄災の子に、魔物の反応が一瞬遅れる。
「もう誰も、誰も傷つけるもんかああああああ!!」
そう叫びながら厄災の子はガントレットで魔物の頭を殴り始めた。
 光の盾がデーモンの頭部にめり込み、デーモンががっくりと膝を付く。
 厄災の子はそれでも攻撃の手を緩めず、デーモンの頭をでたらめに勝ち割っていた。
 青い返り血が飛び散り、厄災の子の体を青く濡らす。デーモンも必死に手足を振り回して攻撃から逃れようとするが、厄災の子は執拗に盾を振り下ろした。
 デーモンがでたらめに振り回した爪で引っかき傷が出来ても、厄災の子の攻撃が続く。
 どうやら一撃でデーモンを葬るほどの力はないようだ。
 デーモンが完全に動かなくなるまでまで厄災の子の攻撃は続いた。
 砂の上に突っ伏し青い血だまりを作るデーモンから飛び降りると、厄災の子は乱れた息を整える様子もなく次の魔物を見据えていた。
「次はお前だぁ!!」
「グア!?」
厄災の子が別のデーモンに襲い掛かる。
 だけど、最初の一匹に時間を掛けすぎたせいで周囲のデーモンたちは厄災の子に気づいてしまっていた。
 一人で多数を相手にするときは、相手の体制が整うまでにどれだけ数をそげるかが勝敗の鍵になる。
 その意味では最初の一匹に時間を掛けすぎたのは致命的だった。
「たああああ!!」
「グアアアア!!」
厄災の子が繰り出したシールドバッシュをデーモンの羽が受け止める。
 不意打ちでは有効だった攻撃も、向こうが十分に迎え撃つ体勢が出来ていては通用しないようだった。
 攻撃を受け止められ動きが止まった厄災の子の腕をデーモンの手が掴む。
 いくら鍛えられてるからって、所詮は人間の子供だ。
 デーモンのバカ力で握りつぶされたら、腕の骨が砕けるどころか、そのまま引きちぎられてもおかしくない。
 ダメだ、逃げろ!!俺は心の中で叫んでいた。
「ギャハハハハハ!!」
だけど、デーモンは俺の予想を裏切る行動にでた。
 デーモンは厄災の子を乱暴に持ち上げたかと思うと、そのまま勢い良く地面に振り下ろした。
 厄災の子は地面に地面に叩きつけられ、ボフッという音と共に砂煙が舞う。
 下地が砂で良かった、これが舗装された道路だったら大怪我じゃすまないぞ。
 厄災の子に気づいた他の魔物たちが振り向き厄災の子を取り囲む。砂の中に埋もれて蹲っている厄災の子を見て一様に下卑た笑みを浮かべている。
 やばい、今度こそ殺られる!!
 爪で心臓を貫かれるか、炎で焼かれるか、どっちにせよ一撃でやられる状況だ!!
 だけど、デーモンたちが始めた行動はまたしても俺の予想とは違っていた。
「ギャアハハハハハ!!」
「グヘヘヘヘヘヘ!!」
デーモン達は耳障りな笑い声を上げながら、厄災の子を踏みつけ始めたのだ。
 腹や頭といった急所は避け、ただただ痛めつけるかのように……。
 厄災の子は小さく蹲って、その数の暴力に必死に耐えていた。
「ディノーズ、お前はアミルとヘキンスを助けに向かってくれ。俺があの子を助ける」
「二人を助けたら、俺様たちもそちらに加勢する。それまでは……死ぬな」
「逆に俺達が先に片つけて手伝いに行ってやるぜ!!」
そう俺が叫ぶのを合図にして、俺とディノーズは一斉に屋根から飛び降りた。
 俺は厄災の子を助けるために、ディノーズとガウガウはアミルとヘキンスを助けるために魔物の群れに切り込んでいった。
 まともに魔物を相手にしたら命はない。電撃戦で敵陣に切り込み、混乱が生じた隙を突いて一気に救出するしかない。
 海岸の反対側、ディノーズ達が向かっていった方向から魔物の叫び声と悲鳴が同時に耳に届いてくる。
 あっちはもう始めたらしい。
 こっちもグズグズはしてられねぇな!!
 俺は厄災の子をいたぶっている魔物へと突撃を仕掛けた!!
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