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□ 小説本編その4【ふたりめの勇者】 □

俺は世界を……【ふたりめの勇者・その3】

 少年の後を追って走ってきたレツが目にしたものは、一見こじんまりした食堂だった。
 ホテルで本を見て説明を受けた時に見た写真と同じである。
 もうたどり着けないと思っていたレツはその姿を目にして感動すら覚えていた。
「ここでいいスか?」
「あ、ああ」
「じゃ、これで」
少年は手短に挨拶を済ますと、レツ達に背を向けて夜の雑踏へと一歩を踏み出そうとした。
 だが、その一歩は踏み出されることはなかった。
「あ、あのさっ」
タイガが少し緊張した面持ちで少年の顔を覗く。
 彼の両手はしっかりと少年の右手を握っていた。
 少年も少しめんどくさそうな様子でタイガの方を向いた。
「何か用すか?」
「もしよかったら、一緒に夕飯食べない?」
「は?」
少年は返事に困っている様子だった。
 レツも少し戸惑いを覚えていた。タイガは確かに人懐っこい性格だが、初対面の人間にここまで馴れ馴れしくするタイプではない。
 そんなタイガの意外な行動。
 トウマのようなタイガと気が合うタイプならともかく、第一印象で完全にビビっていたのにも関わらずである。
 何故ここまで彼に拘るのか、レツは疑問に感じていた。
 その間にもタイガと少年はお互いの視線を衝突させていた。
 そんな衝突が10秒ほど続き、少年は小さなため息をついた。
「構いませんが、俺持ち合わせないすよ?」
「あ、それは俺らのオゴりだから」
レツが咄嗟にフォローを入れる。
 少年は観念したのか、足早にレストランの中へと入っていく。
 その後をタイガが慌ててついていく。
 タイガの不自然な言動に疑問を抱きながらも、レツもレストランの入り口をくぐった。
 中は木の柱と土壁という質素なつくりだが清潔感の漂う店内だった。
 テーブルも4、5個しかなくカウンターとあわせても20人入れば人で一杯の小さな店だ。
 そんな小さな店だが、カウンターとテーブル3つが人で埋まっているところをみると、味はかなりいいのかもしれない。
「レツにーちゃん、こっちこっちー!!」 
タイガの声がするほうを向くと、タイガと少年が一つのテーブルをすでに確保していた。
 レツはタイガの正面の椅子に腰掛けると、備え付けのメニューを開いた。
「俺、これと、これと、これと、これ!!」
殆ど全部じゃないかと言いたくなるような勢いでメニューを選びまくるタイガ。
 レツも負けじとメニューをオーダーする。
 そんな様子を少年は少し呆れた様子で無表情で見下ろしている。
「んー、頼まねーの?」
まだ一個も注文を入れていない少年にタイガが促す。
「別にどれでもいいすよ」
「どれでもいいんだな?」
少年の適当な反応に、タイガはニヤリと笑う。
「おばちゃーん、さっきのもう1セット」
タイガが頼んだのと同じだけオーダーされた少年。
 その量は軽く3人前を超える。表情には表さないが、少年が少し焦っているのが気配でわかった。
 この状況で焦るなという方が無理な話だが。
「タイガー、もうちょっと考えて頼めよ。彼完全に引いちゃってるぜ」
「大丈夫、大丈夫、余ったら俺が食べるから!!」
レツの言葉にもお構い無しといった様子のタイガ。
 だが、その不自然なはしゃぎ方がかえって不自然に見えてくる。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺、レツ・ランページ」
「俺はタイガ・ランページ!!」
自己紹介を済ませ、少年が名前を名乗るのを待つレツとタイガ。
 だが、二人の予想とは裏腹に少年はなかなか名乗ろうとしない。
 それどころか今までずっと無表情だった少年に僅かに動揺の色が見えた。
 微かに眼が泳いでいて、何かを探しているようにも見える。
「な、名前は……」
少年は何かを見つけると、少し俯いてこう言った。
「カッツ……」
カッツは名前だけを名乗ると、フードで顔を隠すように深く被って壁にもたれかかった。
 何か聞いちゃいけないことを聞いてしまったのかとタイガと顔を見合わせるレツ。
 その間にテーブルを埋め作る量の料理が運ばれてきた。
 パスタから、ビーフシチュー、ハンバーグステーキにサラダまで、種類も量も尋常ではない。
 明らかに10人分くらいある料理をがっつきはじめるレツとタイガ。その様子を無表情で眺めるカッツ。
「ん?くわねーの?」
ただぼんやりと見ているだけのカッツにタイガが声をかける。
 タイガの言うとおり、カッツは出された料理に全く手をつけていなかった。
 最初は遠慮しているのかと思ったが、あまり食べ物そのものに興味がないようだ。
「まさか夕飯もう食べたとか?」
「ただ食欲がないだけなんで……」
レツがそういって差し出した料理をカッツは遠慮気味に辞退した。
「えー、これウマいのに」
タイガは少年が辞退した料理を皿を抱えながら豪快に食べている。
 本当に食欲がないのかな、そうレツが思い始めていたときカッツがゆっくりと皿に手を伸ばした。
「それじゃ……」
カッツはスプーンを手にとって近くにあったきのこスープを掬って口に運ぶ。
 その様子を食事の手を止めてじっと眺めるタイガ。レツもつられてカッツの様子に注目する。
 スープを飲んで数秒後。
「意外といけるすね」
「だろ?だろ?」
カッツの言葉に自分のことのように喜ぶタイガ。
 結局レツとタイガはいつも食べる量+1人前を食べ、カッツは普通に1人前の食事を取った。
 最後に出されたデザートも食べ、タイガとカッツを先に店の外に行かせる。
 そして会計を済ませてレツが店の外に出ると、タイガが一人見送るように人ごみの中をじっと見つめていた。
「カッツは?」
「もう行っちゃった。『夕飯ありがとうございました』だってさ。素っ気ねーやつ」
そうは言っていてもタイガの表情は晴れ晴れとしていた。
「タイガ、あのカッツって子に妙に拘るんだな」
「んー何でかな」
タイガは自分でもわからないといった様子で空を見上げる。
「なんかさぁ、放って置けなかったんだぁ……」
「って、放っておかれたら困ってたのは俺達だろ?」
「そうなんだけどさ……」
言葉にできないもどかしさからか、ギュっと拳を握るタイガ。
 街の明かりのせいで多くは見えない星を尚も見つめ続けている。
「また、会えるかな……」
タイガは小さくポツリと呟いた。
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