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鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その1【タイガとの出会い】 □

俺は世界を……第二話

 三週間後、レツは故郷の村にいた。
 勇者と落ち合う場所を教団から尋ねられた時に何の考えもなしに自分の故郷の村にしてしまったからである。
 後から聞いたのだが、そのまま教団本部で良いですと答えていれば3週間の間VIP待遇で過ごせたらしい。
 レツにとっての旅の始まりはけして幸先のいいものではなかった。
「はぁ、俺ってバカかも」
レツは村はずれの切り株の上に腰掛けて深いため息をついた。
 頭に浮かぶのは豪華な客室と贅沢な料理。
 自分の迂闊さというか、脳みその少なさを本気で嘆いていた。
 実はレツは勇者の護衛になったことを村の皆に話してはいなかった。
 勇者なんて単語が出たら最後、村を挙げての歓迎会が1週間近く続くことだろう。
 あいつらの事だから、お前は村の誇りだ、とか何とかいって勇者ごと長々と宴をするつもりなんだろう。
 はっきりいって、そんなのはありがた迷惑だ。
 だから、サッと合流して気づかれないうちにここを後にしたかった。
 そして、理由はもう一つあった。
 教団を後にするときに言われた言葉、『勇者は魔物を倒す存在であると同時に、魔物を引き寄せる。みだりに町に近づけば危険に晒すことになる』が気にかかっていた。
 勇者は魔物にとって唯一の脅威である。
 ならば、魔物が勇者を狙ってくるのはある意味必然である。
 つまり、勇者がどこかの街に滞在することはそのままその町を魔物の脅威に晒すことになる。
 そういった受け入れ態勢が整っている街ならいいのだが、レツの故郷のような辺境の村にそんなものはない。
 勇者を村に入れれば、自分の故郷を危険に晒すのは明白。
 自分を育ててくれた村の人々や自然をそんなことで壊したくなかった。
「で、勇者様の到着はまだかよ」
レツはもう一度ため息をついて空を見上げた。
 すでに太陽は最も高い位置にあった。
 教団の説明では遅くても昼前には到着するらしい。
 これは何かあったのかもしれない。レツの中で嫌な予感がよぎった。
「仕方ない、迎えにいくか」
レツは切り株から腰を上げると、手で服についた埃を払った。
 自分の家で昼食を食べさせて出発とか言うのんきな事を行っていられる状況ではないのかもしれない。
 レツは森の中に駆け出した。
 森の中を十数分ほど走ったところで、レツは思わず足を止めた。
 目の前に広がっていた光景に圧倒されたからだ。
 血の海、グシャグシャになった馬車の破片、そしてかつて人間であったものの残骸。
 普段魔物との戦いで血を見慣れているレツでさえ一瞬軽い吐き気を催すほどの惨状だった。
「これって、勇者を連れてた一団なのかよ……!?」
レツは血の気が引いていくのを感じていた。
 勇者と合流する前に勇者が死亡だなんて冗談でも笑えない。
 レツは音を立てないように慎重に生存者を探し始めた。
 まだこの近くに彼らを襲った魔物が潜んでるかもしれないからである。
 馬車の残骸をどかしたり、草の陰などを探しても目に入るのは死体ばかり。
「死体は兵士のばっかだな……」
レツはポツリと言葉を漏らした。
 彼の言うとおり、地面に転がっている人間の死体は皆ブロンズに輝く鎧を身にまとっていた。
 これはレツが教団の本部に赴いた時に見た、兵士達の装備であった。
 つまり、ここで死んでいるのは護衛の兵士達であって勇者ではない。
 最悪の状況の中で一筋の光明を見たレツの顔がニヤリと微笑んだ。
「後ろか!!」
突然、レツの背後で草が揺れる音が飛び込んでくる。
 レツは反射的に迎撃の構えをとった。
 彼の読みどおり、何かが高速でレツに襲い掛かってきていた。
 コンマ数秒の世界、姿を認識なんかしていたらやられる。
 レツはその何かの手の先に意識を集中した。
 早い、けれど見切れない速さじゃない。
 レツは手甲でその何かの一撃を冷静に受け止めた。
「って、人間じゃんか」
その何かはあっけらかんと答えると、すぐに攻撃の手を止めた。
 目の前に現れたのは、14歳程度の黒髪のスポーツ刈りの少年だった。
 男らしい凛々しい顔つきに、武道をたしなんでいるのか格闘着を身にまとっている。
 そして右手には白銀に美しく輝くクローが装備されていた。
「わりー、わりー、魔物に襲撃されてさ、あんちゃんまで敵かと思っちった」
そう言うと、少年は誤魔化すように笑った。
 その少年の面影にレツは思わず息を呑んだ。
 その顔立ち、笑い方、年齢。
 まるで自分の弟がもし生きていたらこういう姿であっただろうという、レツの考えにそっくりな少年だったからだ。
 いや、死んだはずの弟がよみがえったかのような印象さえうけた。
 そう、魔物に食われて死んだはずの弟に。
「あれ、あんちゃんさっきのでケガしたとか?」
「あ、いや、大丈夫だ」
不審げに顔を覗き込む少年。
 ボーとしていたところに声をかけられて慌てるレツ。
 だが、少年はそんなことお構い無しに話を続けた。
「あー、そうだ。あんちゃん、レツ・ランページって奴知ってるか?」
「それ、俺だけど」
一瞬の沈黙。
 少年はレツの顔をじっと見つめる。
「ええええええええええええええ!?」
そして少年はレツの方がビックリするような驚き方をすると、一瞬で2mほどの間合いをとった。
 そして何をするのかと思えば、袖の中から一枚の紙を取り出して広げた。
「えーと、はじめまして、わたしがあなたとともにたびをする、ゆうしゃです。これからともにたたかい、せかいのへいわにこうけんしましょう」
棒読みの自己紹介を始める少年。そして最後にペコリと頭を下げる。
 どうやらこの少年が勇者らしい。
 あまりに唐突な出会いにレツは呆気に取られるしかなかった。
「って司祭のオッサンにやれっていわれたけど、間違ってなかった?」
あまりに幼い勇者に、レツは頭が混乱していた。
 勇者というと、もっと気品と威厳に満ちてて、人々を導く存在なのだと勝手に想像していた。
 だが、現実は自分よりも幼い子供だ。
 自分の中で何かがガラガラと崩れていくのがわかった。
「って、聞いてる?」
「あ、ああ」
勇者に顔を覗かれ、慌てて答えるレツ。
「んじゃ、そういうわけでよろしくなっ」
屈託のない笑顔と共に手を差し伸べてくる勇者。
 レツはその小さな手を恐る恐る握った。
 その手は小さかったが、確かに暖かかった。
 その小さな手が遠慮なく自分の掌を握ってくる。
 こちらも握り返すと痛いってといいながら、再び笑いかけてくる。
 その笑顔に再び弟の面影がダブる。
 勇者とレツの旅が今ここに幕を開けた。

 1時間ほどして、増援という名の死体処理班が到着した。
 彼らの手によって遺体が回収されていくのをレツと勇者は見守っていた。
 死体を見ても殆ど動揺しないところをみると、ただの子供というわけではないことはレツにもわかった。
 そう、彼は世界を守る勇者なのだと自覚させられる。
 30分ほどで死体の回収は終わり、兵士達はレツと勇者に敬礼をすると足早にその場を去って行った。
「来て早々とんでもないことになったな」
レツが呟くと、勇者は腕を組んでうんうんと頷く。
 その仕草が妙に子供っぽい。
「あん時は俺も武器に慣れてなくて、自分の身を守るので精一杯だったからなぁ」
「お前が無事だっただけでも不幸中の幸いだな」
そういって頭を撫でてやると、勇者は気恥ずかしそうに首を縮めた。
「でも、逃げてばっかじゃなかったからなっ!!」
「はいはい」
強がる勇者の頭をさらに撫ぜるレツ。
 レツにはどうしても勇者というよりも、弟のように思えて仕方がなかった。
「そういえば、勇者様の名前はなんていうんだ?」
レツがそう尋ねると、勇者はきょとんとした表情でレツを見上げた。
「俺の名前は……勇者だけど?」 
「それは役割の名前だろ?お前の名前だよ、名前」
「だから勇者だって」
お前バカか?といいたげな表情で言葉を返す勇者。
「だからさ、俺にはレツ・ランページって名前あるだろ?そういう名前はないのかよ?」
「そーいう名前は……ないよ」
「ってことは、勇者様には名前がないってことか?」
「そんなこと、深く考えたことないからなぁ」
そういった深く考えるフリをする勇者。
 実際には何も考えていないことはレツにも見て取れた。
「まあ、俺は勇者だからそれでいーんじゃね?」
そういってケラケラと笑う勇者。
 だが、その姿が何故かレツにはひどく不憫に映っていた。
 まるで彼が勇者としてしか存在を許されていないかのような印象を受けたからである。
「お前、自分だけの名前欲しくないか?」
「ほえ?」
レツの突然の言葉に固まる勇者。
 自分でも突拍子もないことをいっていることは百も承知だった。
 けれど、そうでもしないと目の前にいる少年が、弟が人間として認められていないような気がレツにはしていた。
「欲しいか?」
「ほ、欲しい!!」
即答する勇者。その目はキラキラ輝いている。
 その頭をレツは髪の毛がグシャグシャになるまで撫ぜた。
「お前の名前は……タイガ・ランページだ」
「かい?それが俺の名前!?」
まるでクリスマスプレゼントを貰ったような表情を見せるタイガ。
 レツは勇者に名前を与えた。
 かつて弟の名前だった名前を。

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