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鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その6【雷の平野で】 □

俺は世界を……【雷の平野で・その2】

 ステラが差し出した手をレツは何の疑いもなく握った。
 人間なのだが、人間らしい気配のない女性であった。隣のベガも同様である。
 握った手もどことなく人間のものとは違う感触である。
 もしかしたら彼女も機械なのかも知れない。
「大丈夫よ、いろいろと身体のパーツは入れ替えているけど大元は人間だから」
レツの僅かな表情の変化を読み取ったのか、ステラがニッコリと微笑んだ。
「は、はぁ……」
レツは少し戸惑いながら、自分も作り笑いで返す。
「では怪我人をこちらに」
ステラが言うと、彼女の言葉に連動するように車輪付きの担架が自動でやってきてレツとカイルの前に止まった。
 レツが恐る恐るタイガを担架の上に乗せると、ガラスのケースが彼を覆い建物の奥へと走り去っていく。
 カイルとレツは運ばれていく二人を心配げに見送った。
 信頼してないわけではないが、全てが初めて見るものばかりの国で全てを委ねろというのは難しいことだ。
「ご心配なく。勇者二人は我々が責任を持って治療いたします」
ベガはそう言って小さく会釈をすると、走り去っていった担架の後を追って通路の奥へと消えていった。
「あと」
そういった瞬間、今まで穏やかだったステラの表情が少しだけ硬くなった。
「今回は人道上仕方なく入国を許可しましたが、治療が終わり次第速やかに出国してもらうわ。悪く思わないで」
「あ、ああ」
一方的に言われ、レツはうなずくしかなかった。
「本来雷の国のような、光の国と国交がない国に勇者が入国するだけで外交問題に発展しかねないの」
ステラは申し訳なさそうに目を床に伏せた。
「だから、正規の手続きで入国したイレーヌさんとチーコさん以外の方の国内での活動には著しい制限が加えられるわ。冷たく聞こえるかもしれないけれど、これが私達にできる精一杯の譲歩なの」
「いや、俺達やタイガを助けてくれただけで十分だからさ」
レツの言葉に、ステラは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに最初に見せたあの柔らかい笑顔を見せてくれた。
 その笑顔がどことなく哀しげに見えたのが少し気にはかかったのだが。
「それでは私もこれで失礼するわ。勇者二人の処置が終わるまでそこのロビーで待っていて」
ステラはそういい残すと、ベガ達が向かった通路へと歩いていった。
 残されたのはレツ達6人である。
 レツは近くにあったソファーにどっかりと座り込んだ。予想以上に沈むソファーに一瞬驚いたが、すぐにそれに身を委ねた。
 レツの姿を見て、カイルやトウマも恐る恐るソファーに腰掛ける。
「なあ、イレーヌ。ここって、勇者のいない国なんだよな?」
「そうね。ここは勇者の力に頼らずに、自国の戦力だけで魔物と戦ってきた国よ」
窓の外の風景を眺めながら、イレーヌはレツの質問に答えた。
 イレーヌやチーコはこの風景は見慣れているといった様子だ。
「この国は国土は狭いけど、国中で安定した放電が起きているから、その電気を利用したエレクトロニクスが発達しているのよ」
「電気って、雷の術で発生させるやつだよな?」
「そうよ。あれを継続的に発生させることで機械の動力源にしているの」
イレーヌの説明に、レツはわかったのか、わからないのか、よくわからない状態でうなずいた。
 イレーヌもレツの状況を察しているのか苦笑いをしている。
「この国は機械を利用した機動兵器で専守防衛を旨として魔物と戦ってきた国なのよ」
「専守防衛?」
「この国を守るためにしか戦力を使わないという意味よ。確かにこの国の兵器は強力だけど、動力が電気である以上、この国の外で活動できる時間が限られているわ。それに、光の国との協約でこの国の機動兵器は国外に持ち出すことは禁止されているの」
「どうしてだよ?この国の力と勇者が力をあわせれば、魔物なんて簡単に……」
そういった瞬間、イレーヌの表情が曇った。
「雷の国の機動兵器は魔物にとっても脅威だけど、同じ人間にとってはそれ以上の脅威になりえるのよ」
レツの言葉を遮るようにイレーヌが喋る。
 その表情はどことなく物憂げで複雑な表情だった。
「雷の国は雷の国のやり方で、光の国は光の国のやりかたで魔物と戦っているの。だから、お互いのやりかたには干渉してはならない、そういうルールがこの世界には存在しているのよ」
イレーヌの言葉に、レツは納得がいかないといった様子で俯いていた。
 この国の力があれば、タイガやカッツが傷つかずに魔物と戦えるかも知れない。
 それなのにどうして……。
「お二方の治療が終了しました。ご面会をなされますか?」
急に背後から声がしてレツは思わず飛び上がった。
 振り向くと、看護婦の格好をしたベガがレツの真後ろに立っていた。
 ミカエルのように気配を隠しているわけではない、この少女は気配そのものがないのだ。
 気配がない、それはつまり生きてはいないということ。
「あ、ああ。頼む」
動揺を悟られないようになるべく自然にレツが答えると、ベガはニッコリと微笑んだ。
 その笑顔すらも作り物に思えてくるが。
「それでは病室へご案内します」
ベガはそういって踵を返すと、先ほどとは別の通路をしずしずと歩いていく。
 レツ達も彼女に置いていかれない様についていく。
 通路を歩いていくと、ガラスの窓から病棟らしき白い建物が見えてきた。
 ベガに導かれ、その病棟の中へと入っていく。
 その建物の中は人気のない、左右に扉らしきものが並んでいる通路だった。
 ベガはしばらく歩いた後に、ある扉らしきものの前で立ち止まった。
「お二人ともこちらでお休みになられています。意識はすぐに戻ると思いますよ」
そういってベガが指差した扉が自動でスライドする。
 レツ達がその中に入ると、そこは白い壁に囲まれた10畳ほどの部屋だった。
 埃一つない床、窓からは日の光が取り込まれ、付き添いのためのソファーまで置かれ治療に専念するには申し分ない部屋である。
 その部屋の中に並べてベッドが置かれていた。
 白いシーツに白い布団。その中にカッツとタイガが寝かされていた。
 さっきよりは幾分か血色はよさそうに見える。
「ラフロイズさん、こちらに」
後ろでイレーヌがラフロイズをソファーに休ませている。
 カッツやカイルも疲れ果てた様子でソファーに倒れこむ。今まで保っていた緊張の意図がぷっつりと消えたのだろう。
「それじゃ、オイラとイレーヌで必要なものの買出しに行ってくるニャ」
チーコは肉球を見せて、イレーヌと連れ立ってスライドするドアを潜って通路へと歩いていった。
 レツは二人を見送った後に、レツはカッツとタイガガ横たわるベッドの中間の隙間に立った。
 そういえば、フードを外したカッツを見たのは初めてだったような気がする。
 普段は獣のような獰猛さを隠そうとしないカッツだが、こうやって眠っている姿はごく普通の14歳の少年だ。
 タイガもいつもの天真爛漫な笑顔を見せている。
 そう、この国では彼らは勇者ではなく、一人の少年なのである。
 もしこの国に二人が生まれていれば、そんな儚い妄想を抱く自分が悲しくて仕方がなかった。
「ん……」
タイガから微かに声が漏れる。
 レツは反射的にタイガの顔をかぶりつくように覗き込む。
 彼に見守られるようにタイガはゆっくりと瞼を開いた。
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