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鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その6【雷の平野で】 □

俺は世界を……【雷の平野で・その6】

 赤という色だけでいったい何種類の色があるというのか。
 イレーヌが眺めるショーケースの中には、そんな色とりどりの赤が揃っていた。
 燃えるような赤、桜のような薄いピンク、少し淀んだ落ち着いた様子の赤もある。
 そんな色とりどりの口紅を、イレーヌは一つ一つ手にとっては眺めていた。
「今年の新色ってこんなに明るい色なのね……」
そういって口紅を眺めるイレーヌの瞳は、遺跡を調査するときとは違った輝きに満ちていた。
「ま、今年の新色はショッキングピンクっぽいニャ」
買い物袋を抱えたチーコが、そういってイレーヌの隣についた。
 それも買うのか?と言いたげに手をさし伸ばすチーコ。
 一瞬顔がほころんだイレーヌだったが、すぐに躊躇して口紅をショーケースの中に置いた。
「さすがにレツやタイガのお金で口紅を買うのは悪いわ」
「でも免税店でもないと、この値段でそれを買うのは不可能ニャ」
チーコのいうとおり、店の看板にはでかでかとDuty Fleeという文字があった。
 つまり、税金がかからない分通常より安く買えるということだ。
「流石にこれは自分で買うわよ」
「んじゃ、オイラがカードで買ってくるニャ。こっから5%引きされるニャ」
「それじゃ後でお金払うわね」
ニャとチーコは肉球を見せると、ポテポテとレジのほうへ走っていく。
 しばらくして厳重にシールで封をされた袋を抱えてチーコが戻ってくる。
 イレーヌは知らない。カードで買い物をすると、現金として使えるポイントがつくことを。
 そしてポイントを得たいがために代わりに買ったことも。
 税金がかからなかった上に5%引きで気に入った口紅が買え機嫌がいいのか、イレーヌはチーコの荷物を半分持ってあげた。
 紙袋の中をのぞくと、着替えやら歯磨きやら入院に必要なものがぎっしりと詰まっていた。
 半分だけでも意外とズシリとくる重さだ。
 この倍の重さを抱えて歩いているチーコも伊達に行商人をやっているわけではないということか。 
 後はレツたちの下へ戻るのみ。二人は病院へと続く動く歩道に乗ると、手すりにもたれかかった。
「今でも信じられないわ」
「何がニャ?」
「勇者がこの国に入国できたってことよ」
イレーヌの言葉に、チーコも同じことを考えていたようでヒゲを指でいじりながら考え込んでいるようだった。
 国境の門でレツとベガのやり取りを聞いていたとき、とてもじゃないが入国できるとは思えなかったのである。
 その後のチーコの交渉のテクニックも大きかったであろうが、それ以外にも何かがかかわっているような気がイレーヌにはしていた。
「一理あるニャ。いくらオイラの交渉があったとはいえ、あっさりいきすぎニャ」
チーコも同意するように頷く。
「雷の国はこの数百年間、他国に干渉せず、干渉させずを貫いてきた国よ。勇者がいなくても13魔将を倒せるだけの軍事力もある。それなのにまるで勇者に恩を売るかのような今回の態度が解せないのよ」
「まるで勇者とのパイプが欲しいみたいニャ」
「8つの国の中で最も勇者を必要としない国が、よ?」
イレーヌの意見はチーコも同じように疑問に感じていることのようだった。
 チーコは何かを決したかのように頷くと、背伸びしてイレーヌの耳元に口を近づけようとする。
 だがそれだけでは届かず、イレーヌが膝をかがませてやっと耳元に届いた。
「ここだけの話ニャが、雷の国がミスリルと銀を大量に輸入してるらしいニャ」
「ミスリルと銀……?」
「二つを混ぜて作る合金は一つニャ」
チーコの言葉にイレーヌの顔がこわばった。
「AM装甲の材料……?」
AM装甲。アンチマジック装甲の略称で、一定の電荷をかけると魔法を反射させる性質を持つ合金のことである。
 この合金は魔物に対しても有効だが、魔法を主戦力にしている国に対しても十分な脅威になりえる代物である。
 もちろんこの装甲を使った兵器の国外への持ち出しは硬く禁じられている。
「それと今回の勇者への態度、関係がないとは思えないニャ」
チーコの言葉に今度はイレーヌが深く考え込む番だった。
 本当に軍備増強をするのなら勇者はますます必要となくなるはず。光の国との軋轢の原因ともなりかねない勇者を入国させるはずがない。
 だが実際はその逆なのである。
「で、あなたはどう考えるの?」
イレーヌがたずねると、チーコは陽気に肉球を見せた。
「相手の考えが見えてくるまで、とりあえずは踊らされてみるニャ。マグロが欲しけりゃお手をしろニャ」
「敢えて相手の策に乗るわけね。そういうの好きよ」
イレーヌとチーコは再びお互いの顔を見合ってニヤリと笑みをこぼすと、病院のガラスの戸を潜った。
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