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鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その6【雷の平野で】 □

俺は世界を……【雷の平野で・その7】

数日後、タイガとカッツは普段どおりに動けるまでに回復していた。
 その間ずっとタイガが話題にしていたのは街の観光のことだった。
 本当に嬉しそうに観光のことを話すタイガを見て、本当に楽しみなんだとレツは改めて思った。
 たとえ短い間だけでも、普通の子供として過ごしてほしい。
 それは勇者の従者としては失格な考えなのかも知れないが、今のレツには願ってやまなかった。
 観光をすることにしていた日の早朝、レツはドアをノックする音で目を覚ました。
「ふぁーい」
眠い目をこすりながら病室のドアを開けるレツ。
 目の前に立っていたのはバスガイドの格好をしたベガだった。
 無表情で案内旗を左右に振る様がなんとも不気味だ。
「ステラ様より皆様の案内を承ってまいりました。それでは参りましょう」
ベガの声で目を覚ましてやってきたカイルとトウマも彼女の姿を見て目が点になっていた。
「町の案内をするにはこの格好が相応しいという情報を得ました。何か不都合がございましたか?」
「あ……いや……」
不思議そうに首をかしげるベガに対して、少し遅れて目を覚ましたカイルはどう答えたらいいか言葉に困っているようだった。
 ベガにはその態度が問題ないととったのか、彼女は旗を振りながら病室の中へ入ってくる。
 シュールな雰囲気が病室に漂う。
「どーしたの?」
目を覚ましたタイガが目をこすりながら裸足のままペタペタと足音を立ててレツ達の方へやってくる。
 レツやカイルはタイガも彼女の姿を見て言葉を失うに違いないと思っていた。
 だが、彼らの想像とは裏腹にタイガの表情は見る見るうちに輝きを増していた。
「うわ、すっげー!!かっこいー!!」
ベガの服を見て興奮気味に叫ぶタイガ。
 そんなタイガを見てベガも嬉しそうに微笑む。
 ベガの服に、タイガの感性。レツはどう言葉で表現していいのかわからず、ただ立ち尽くしていることしかできなかった。
「なー、なー、早く行こうぜ!!」
ベガの傍らで隣の部屋に響きそうな大声でレツに催促するタイガ。
「小さいころの祭りの日のお前にそっくりだな」
Tシャツを脱いだカイルがレツをからかうように言った。
 その上半身は騎士の名に相応しい鍛え方をしていた。
 以前の泣き虫とは思えない、たくましい青年がそこにはいた。
 カイルは手早く私服に着替えると、荷物の入ったカバンを肩にかけた。
「外でトウマ達が待っている。急ごう」
カイルが急かすようにレツたちに言う。
 イレーヌやチーコ、トウマ、ラフロイズは病院の近くのホテルに滞在しているのだ。
 そして勇者の従者であるレツと、管理人であるカイルだけが病室に寝泊りしているというわけだ。
 本来ならラフロイズもカッツとともに病室にいるべきなのだろうが、彼女の体調を案じてホテルに滞在させていた。
 そのため、イレーヌたちとは病院の前で落ち合うことになっているのだ。
 そういうわけでさっそく観光のために着替え始めるタイガ達。
 相変わらず着替えにもたつくタイガだが、下手に手を出すと怒られるのでレツには見ていることしかできない。
「ふぅ」
シャツから頭を出して、袖から両腕をつきだすタイガ。
 この日のために買ったシャツを嬉しそうにレツに見せ付ける。
 カッツも黙々と着替えをしていた。
 シャツを脱いだときに見せた無駄のない筋肉と傷だらけの素肌が、彼の進んできた道を嫌がおうにもレツに思い知らさせる。
「さっさと観光を済ませて、こんな国でちまいましょう」
フード付のシャツに袖を通したカッツが無表情でレツに言った。
 勇者として戦えないこの国はカッツにとっては居心地のいい国ではないようだ。
 彼にとっては普通の少年としての日々よりも、勇者としての戦いの日々が大切なようである。
 そう考えると、今を喜ぶタイガと、淡々と過ぎるのを待つカッツ、どちらが勇者として相応しいのかわからなくなってくる。
「ま、雷の国なんてそうそうこれるもんじゃねーしさ、たまには楽しもうぜ」
レツはそう言ってカッツの肩を軽くたたいた。
 ギロリとカッツが睨み付ける。普通の人間なら腰を抜かしそうな威圧感だ。
 だが、それを受けてもケロリとしているレツを見てカッツは軽くため息をついた。
「とりあえず、どうすりゃいいんスか」
諦め口調でぼやくカッツ。
 レツはそんなカッツの肩に強引に回して自分の元へ引っ張り寄せた。
「俺やタイガやトウマを見習って楽しみゃいいんだって」
「だから、俺はそんなつもりは……」
「大丈夫だ、お前にだってできるさ」
諭す様に話すレツに、カッツが少し驚いたような表情を見せる。
 だが、次の瞬間タイガのフライングボディプレスが二人に炸裂し、レツとカッツはタイガもろとも病室の床に激突していた。
「うおー!!二人ともいくぞー!!」
うつ伏せに倒れる二人に馬乗りになって雄たけびを上げるレツ。
 どうやら興奮のボルテージは最高潮どころか完全に振り切れているみたいだ。
 背中で暴れるタイガごと強引に上半身を起こすレツ。カッツは打ち所が悪かったのか、いまだに起き上がってこない。
「そういうわけだから、いくぞカッツ」
「もう、訳わかんねぇっすよ……」
顔だけ起こしたカッツが諦めたように声を漏らした。その機嫌はすこぶる悪そうだ。
 おまけに床で強打したのか、彼の額は赤く腫れている。
 カッツに半殺しにされないのが不思議なくらいの状況に、レツは笑ってその場を誤魔化すしかなかった。
「それでは参りますか?」
床に倒れこんでいるレツを見下ろして、ベガが旗を振りながら尋ねた。
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