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□ 小説本編その6【雷の平野で】 □

俺は世界を……【雷の平野で・その8】

 レツ達が病室を出ると、病院のエントランスでチーコ、イレーヌ、トウマの三人が歓談をしているのが目に飛び込んできた。
 彼らにとってもオフなのであるから、この日を楽しみにしていたのだろう。
 戦うだけの日々の中で、こういった休みを取れることは殆どない。
 だからタイガが特別なのではなく、ここにいる全員が気分が高揚しているのだろう。
 かくゆうレツも例外ではない。
「おーい、遅いぞー」
レツ達の姿に気がついたトウマが勢いよく手を振っている。
 自分の隣でタイガが手を振り返している。
 動く歩道でたどり着くのを待ちきれないのか、歩道の上を駆け出していくタイガ。
 それを追いかけるようにレツも駆け出す。
 タイガを追いかけるのが表向きの目的だが、レツもわくわくして実は昨日の晩なかなか眠れなかったのだ。
 ガオウのことで暗い話題が多かったためか、ここらで一発気分を変えていきたかったのだ。
「ちゅっす」
レツ右手を上げて挨拶すると、トウマが同じ様子ちゅっすと挨拶を返す。
「今日は絶好の昼寝日和ニャ」
チーコも肉球を見せて朝の挨拶をする。
 朝なのに関わらず珍しく元気のいいチーコ。今日立ち寄るはずの『免税店』目当てなのだろう。
 じゃあ、四六時中寝てるのは何故なのかと突っ込みたくなったが、あえて突っ込むことはしなかった。
「雷の国の情報を仕入れるなんてめったにない機会だからな!!ナビゲーター冥利に尽きるぜ!!」
メモとペン片手に、トウマが鼻息を荒くして言った。
 ふだん足を踏み入れることが許されない雷の国の情報を手に入れることは、他のナビゲーターと大きく差をつけるチャンスなのだろう。
 タイガとは違う意味で興奮しているのがレツにも容易に見て取れた。
「そーだよなぁ、初めて見るもんなー!!」
タイガがトウマの方に手を回して、陽気に声を上げる。
 隣でトウマがうんうんと頷いている。
 理由は違うが、楽しみにしている気持ちを共有できているようだ。
 二人の近くのソファーではイレーヌが何かの本を真剣に読みふけっていた。
 この朝から考古学の勉強なのかと、レツは感心しながら彼女に近づいた。
「よっ、イレーヌ」
「お、おはよう、レツ」
レツが挨拶をすると、何故かイレーヌは本を両手で隠して、上ずった声で挨拶を返してきた。
 何の本なのかと覗き込むと、腕の隙間から覗く表紙には、エレクトリメリア完全攻略一日で遊び倒す方法と書かれていた。
 レツがイレーヌの顔を見ると、彼女は照れ隠しに笑って見せた。
「ふ、普段ここに来る時って、大学の用事で出張で来てることが多いのよ。だから、こうやって観光するの初めてで……」
聞いてもいないことをベラベラと説明し始めるイレーヌ。
 ここまで狼狽するイレーヌを見るのは初めてだった。
「じゃあ、ここのことはイレーヌに聞けば大丈夫だな」
「私が知ってる店は飲み屋ばっかだけどね……」
情けなさそうにこたえるイレーヌ。
 それぞれがそれぞれの方法で今日という日を楽しもうとしている。
 だが、そんな中で無表情で自分達を睨み付けている者がいた。
「カッツ……」
レツがその人物の名を呼ぶと、その張本人であるカッツはぷいと顔を背けてエントランスの隅の壁に移動してしまった。
 皆一様に明るい気分でいる中、溶け込めないでいるようである。
 レツはサルのように騒ぎまわっているタイガとトウマから離れると一人ポツンとたたずんでいるカッツの元へと歩いていった。
 カッツはレツが近づいているのにも関わらず、ただ一点を見つめたまま視線を変えようともしなかった。
 だがピリピリした空気が強くなっていくところを見ると、レツに警戒はしているみたいだ。
 この数日間で、威圧を受けることは少なくなったが、それでもピリピリした緊張感を解くことはなかった。
 常に戦いの中に身をおいている勇者として当然のことだが、一向にその警戒を解かないカッツにたいして、レツはまったく信頼されていないようで複雑な心境だった。
「カッツも観光は楽しみか?」
レツが尋ねると、カッツはその鋭い視線を直接レツの目にぶつけてきた。
 不必要なことを話しかけるなという雰囲気を惜しげもなくこちらに浴びせかけている。
「別に。観光がしたけりゃやりたい奴だけでやれってのが本音ですが」
相変わらず無愛想な口調で答えるカッツ。
 だが、その中にかすかな苛立ちが混ざっているのをレツは感じ取っていた。
 その原因が浮き足立ったタイガたちに対してなのか、それとも別の何か理由があるのかまでは知る術はなかったが。
「じゃあ、なんでカッツは参加したんだ?」
「病院にいるよりは、戦う機会がありそうだったんで」
「へぇ。じゃあ、なんでタイガとトウマと混ざりたそうに見てたんだよ?」
レツの挑発に似た問いかけに、カッツの眉毛がピクリと反応した。
 一気に増す緊迫感。
 薮蛇だったかと、レツは一瞬焦りを感じた。
 だが、カッツは鼻で笑うとタイガとトウマに視線を向けた。
「まさか。あの勇者が現実を知っても能天気でいられるかどうか考えていただけスよ」
「戦うだけの存在ってことか」
タイガの言葉に、カッツは否定も肯定もしなかった。
 ただ無表情でタイガとトウマを見つめ続けているだけである。
「……させねぇよ」
腹のそこから絞り出すようなレツの声。
 その響く声にカッツが思わずレツに顔を向けた。
「俺はタイガをそんな風にさせるつもりはねぇ。そのためにチーコやイレーヌ、トウマと旅をしてんだ。勇者の武器のことも調べる。もっと体に負担のかからない武器の使いは方はないのかってな。タイガは勇者だけど、それ以前に人間なんだよ」
「そうっすか」
「それはカッツも同じだぜ」
レツの言葉に、カッツが少しだけ動揺の色を見せた。
 まったくの意外な言葉だったようだ。
「カッツも俺たちと一緒にこないか?」
真剣な眼差しでカッツに語りかけるレツ。
 そんな彼の視線にたじろいだカッツはあわててその視線をそらした。
「ラフロイズや教団は俺やチーコで説得してみる。だから……」
「俺は……」
カッツが言葉の続きを言おうとしたときだった。
「おーい、レツにーちゃん、カッツ、おいてくぞー!!」
タイガのフロア中に響き渡る声で二人を呼ぶ声がレツの鼓膜に突き刺さった。
 フロアの入り口に小旗を振りながら立ってるベガを先頭に、タイガ達が自分とカッツを待っているようだ。
 あの小さい体のどこにこんな声をだす力があるのか不思議だ。
 カッツがレツの横をすり抜け、無表情でつかつかと足早にタイガたちの下へと向かっていく。
 返事を聞き損ねたレツは欲求不満げに頭をかいて、カッツの背中を追って歩き出した。
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