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鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その2【トラシアでの戦い】 □

俺は世界を……【トラシアでの戦い・その11】

 レツは一人とぼとぼと桶を持ちながら廊下を歩いていた。
 俺は勇者なんだ。その言葉がレツの頭から離れなかった。
 確かにそのとおり、タイガは元々は名前もない勇者である。
 それに勝手に弟の名前をつけて舞い上がっていたのは自分である。
 別に遊び半分で勇者の旅に参加したわけじゃない。けれど、目の前に立ちはだかる現実はあまりに厳しくて。
 レツは力任せに廊下の壁に拳を叩き付けた。
「クソッ!!何が勇者の護衛だ!!結局何もできなかったじゃねーか!!」
レツは怒鳴り散らすと、力なく床の上に腰掛け、あぐらをかいだ。
 全てはあの日に繋がっている。もう誰も死なせたくない、自分の力で大切な人を守る。
 そう決意して修行に励んだ。 
 着実に実力をつけ、勇者の従者の選考会で優勝した時はついに自分の手で大切な人を守れるという喜びに身体が震えた。
 だが、実際はこのザマである。
 崖を上って、やっと頂上に手が届いた瞬間、足元が崩れて谷底に落ちていくような気分だ。
「どこまで強くなりゃいいんだか……」
レツは桶を床に置いて、力なく呟いた。
 赤く染まった水面に自分の情けない顔が映る。
 レツは耐えられなくなって桶から目をそらす。
 その桶を毛むくじゃらの手が握る。顔を上げると、シャム猫の顔がひょっこりと自分を覗き込んでいる。
 チーコだった。
「家壊すと示談が厄介だから、八つ当たりは外でやって欲しいニャ」
チーコはあっけらかんと身も蓋もないことを言うと、桶の水を窓の外に捨てた。
 そしてリュックから紙に包まれた小さな飴玉を取り出すと、よちよちとこちらに歩いてくる。
「元気ないニャ。タダでこれやるから、元気になるニャ」
チーコはそう言って、レツの手にその飴玉を握らせる。
 レツが手を開くと、そこにはミルクキャンディが一個転がっていた。
 だが、今のレツは飴玉を舐めている気分ではなかった。
 飴玉を手に握ったままうな垂れているレツをチーコは首をかしげて不思議そうに見つめている。
「ランページさんもお疲れかニャ?」
「身体の方はそれほどもねーんだけどな……」
レツはそういうと、壁に寄りかかった。
 そしてキャンディーを握ってない左手で顔を覆った。
「オレってマジ弱ぇ……」
「弱くても、即効で死なれたら困るニャ」
チーコのずれたフォローにレツは答える気も起こらなかった。
「ランページさんが弱くても、勇者が強ければいいニャ」
「そう……なんだけどさ……」
チーコの言うとおりなのかもしれない。
 魔物と戦うのが勇者で、それを補佐するのが従者の役目。
 事実、自分では傷一つ付けられなかった魔物に対して、タイガは一時的にとはいえ互角に戦っていた。
 そして、無敵だと思われていたグリフィスを圧倒したあの少女。
 自分の無力さを痛感させるには十分すぎた。
「タイガが勇者の力使ったらあんなにボロボロになるなんて知らなくてさ、勇者が魔物と戦うためにいるってのは知ってるけどよ、戦うってことはあの力を使うってことなんだ」
「ニャ」
「確かに勇者の力無しじゃ満足に戦えないだろうけど、俺、タイガに戦えなんてもう言えそうにねぇよ……」
泣き言を漏らすタイガの背中をチーコがポンポンと優しく叩く。
「なら戦うなっていうニャ」
「さっきタイガにそう言ったら、俺から勇者の武器取ったら何が残るんだ、って言われてさ」
「ただの生意気なクソガキニャ」
「俺はアイツがボロボロになって死ぬのを見てることしかできねぇのかよ……」
本音とも、弱音とも取れる声がをレツが搾り出す。
 その姿は旅を始めた自信と希望に満ちた姿とはかけ離れた姿であった。
 落ち込むレツとは対照的に、チーコは上機嫌で尻尾の毛づくろいを始めていた。
「手を伸ばさなきゃササミは貰えないニャ」
「え?」
「やる前から諦めてたら望む結果は得られないっていう月の国の諺ニャ」
「望む結果……」
「ニャ」
レツが顔を上げると、チーコがまたいつもの肉球を見せるポーズを取っている。
「ヘコんでるだけなら、誰でもできるニャ。でもその間に勇者は戦って死ぬだけニャ」
ニャーニャー口調できついことをサラリと言ってのけるチーコ。
 だが、下手な慰めよりレツにとってはありがたい助言であった。
 チーコのおかげで目が覚めたような気がしていた。
「それが嫌なら行動を起こすニャ。良いか悪いかはわからニャけど、結果は変わるニャ」
「無責任なこといいやがって……」
悪態をつくレツだが、その顔は何故か笑っていた。
 レツはアーモンドを食べるように握っていたキャンディーを上に放り投げて口に放り込んだ。
 少し舐めていると、口の中に牛乳の甘さが広がる。
 それだけなのに、レツの中に力がわいてきた。
 レツの中で何かが吹っ切れたような気がした。
 考えてるだけじゃ何も始まらない、そもそも自分は考えることは苦手なのに。
 とにかく行動あるのみ、それが自分の信条のはず。
「勇者が世界を守るのなら、俺はその勇者を守るために旅を始めたんだよな!!そのことすっかり忘れてたぜ!!」
「解決したようで何よりニャ。カウンセリング料金はサービスにしておくニャ」
そう言うとチーコはレツの膝の上に薬の袋を置いた。
「さっきのより強い痛み止めニャ。痛みが引かないようならこれを飲ませるニャ」
「恩に着る!!」
レツはその袋を手にすると、飛び上がるように立ち上がる。
 そして、タイガのいる部屋に勢いよく駆け込んでいった。
「これで新しい武器買ってくれるかニャ?」
レツが立ち去った後で、チーコがそう言ってニヤリとほくそえんだ事をレツは知る由もなかったが。
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