鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その2【トラシアでの戦い】 □

俺は世界を……【トラシアでの戦い・その10】

 チーコから衣料品を譲り受け、部屋を提供してもらったレツはタイガをその部屋へと運んだ。
 そこは簡素なベッドと机があるだけの小さな部屋だったが、今はタイガを休ませる部屋があるだけでも感謝したいくらいだった。
 広場で痛み止めを飲ませたおかげか、タイガは今は穏やかに眠っていた。
 起こさないように気をつけながらタイガをベッドの上に転がす。
「おばちゃんから借りてきたニャ」
チーコが湯気の上がる桶と手ぬぐいを手にして部屋に入ってくる。
 どうやらその湯と手ぬぐいでタイガの身体を拭いてやれということらしい。
 ここら辺の気配りはさすが月猫族といったところだった。
「サンキューな」
レツはチーコに感謝の言葉をかけると、桶と手ぬぐいを受け取った。
 チーコはニャっと言って肉球を見せると、部屋の外へかけていった。
 どうやら月猫族独特の挨拶らしい。
 レツは枕元に桶を置くと、手ぬぐいを湯に浸した。
 長時間酷使してきた手が湯に沁みる。だが、今のタイガの状況をみているとそんなことを気にしている余裕はなかった。
 手ぬぐいを絞ると、血だらけのタイガの上半身を拭く。
 拭いたところから肌色の肌が顔を見せる。思ったよりも傷が少ないことにレツは胸を撫で下ろした。
 首筋から肩、胸板、わき腹と身体を拭いていくレツ。
 最後に恐る恐る腹筋を手ぬぐいで拭く。
 手ぬぐいで拭くと赤みを帯びた肌が姿を現す。
 ミカエルの治癒の魔法と、自分の気功が功を奏したのか、最初見たときよりは随分と良くなっていた。
「あのさ……そんな風に拭かれるとくすぐったいんだけど」
タイガの声がレツの耳に届く。
 レツがタイガの顔の方を向くと、タイガが薄っすらと目を開けていた。
 どうやら起こしてしまったらしい。
「あ、わりぃ」
レツは笑って詫びると、毛布をタイガの上にかけた。
 そして、彼の枕元に腰掛けた。
「身体の調子はどうだ?」
「なんか、体中がギシギシいってる気分。でも大丈夫だぜ」
レツの問いかけに、タイガはぎこちなく笑って答えた。
 無理してるな、レツは心の中で呟いた。
 タイガの小さな手はベッドのシーツを引きちぎらんほどに握っており、その額には脂汗が吹き出ていた。
 グリフィスに受けた傷からくる痛みとは考えにくい。恐らくはあの武器の反動なのだろう。
「こ、今度は最後まで武器の力開放っすからさ」 
痛みに堪えて無理に笑うタイガの姿が痛々しかった。
 今だってこんなにボロボロなのに、あの武器をもう一度使うなんて……。
 勇者とはそんなにも過酷な使命なのか。
 この小さな肩にそんな重い使命が課せられているというのか。
「もうあの力は使わなくていい」
レツは自分でも驚くようなことを口にしていた。
 レツの言葉に、タイガの瞳にも動揺が見え隠れする。
 だが、一番驚いていたのは言葉を口にしたレツ自身だった。
「な、何言ってんだよ……あの力がなきゃ魔物倒せないじゃんかよ……」
「だからってお前がこんなボロボロになるこたないだろ。俺の知り合いに洒落にならない光の術使いいるしさ、皆で……」
「俺から勇者の武器とったら何が残るんだよ!?」
その声は悲鳴に近かった。
 その時のタイガの表情は、普段の彼とはかけ離れたものだった。
 何かに怯えるような、追い詰められた表情をしていた。
 すぐにタイガは我にかえったが、気まずそうな様子で視線をそらす。
「……わりぃ。一人にしてくんねーかな」
自分の今の表情に気づいたのか、タイガはレツに背を向けて身体を横にした。
 レツの側からはタイガの表情を見ることはできなかった。
「お前から武器取ったって、お前はタイガ・ランページだ」
レツは背を向けるタイガに言葉を残すと、桶と手ぬぐいを持って立ち上がった。
 タイガからの返事はない。
 自分でも無茶苦茶なことを言っていることは重々承知だった。
 勇者の従者失格だといわれても仕方がない。
 けれど、自分の気持ちに嘘を付きたくもなかった。
 レツはドアへ向かってゆっくりと歩き出した。
「俺は……勇者なんだ」
部屋を出るレツの背中にタイガの言葉が突き刺さった。
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