鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その6【雷の平野で】 □

俺は世界を……【雷の平野でその18】

 目の前にタイガがいる。
 大勢の人に取り囲まれた状態で。
 その表情は、いままで見たことのないような怖い表情だった。
 釣りあがった目、眉間のしわ、堅くかまれた唇。
 明らかに敵意の表れだった。
 どうしたんだよ、そんな怖い顔して。
 そういって近づこうとした瞬間、タイガの小さな口が開いた。
 何を言おうとしているのか、何故だか理解できた。
 俺の背中に悪寒が走る。
 だめだ、その言葉をいっちゃ。そう言う前に、タイガが声を発した。
「俺は……」
やめろ、取り返しがつかなくなる!!
「俺は!!」
やめろ、やめろ!!
「やめろおおおおおおお!!」
俺はそう叫びながら身体を起こした。
 辺りを見回すと、そこはホテルの一室だった。
 思い出した、ブブリィを倒して、その日はそのままステラが手配したホテルに直行したんだっけ。
 到着するなり倒れるように眠り込んで……。
 気がつけば窓の外に映る空は漆黒に覆われていた。
 それを暗いと思わせないのは、こんな夜中でも煌々とついている街灯のおかげなんだろうけど。
 俺は頬を伝う滝のような汗を手で拭った。
 顔だけじゃない、全身に玉のような汗をビッシリとかいていた。
 暑さのせいじゃないのは自分が一番よくわかっていた。
 あの夢のせいだ。
 自分の傍らでは、いつの間にかベッドに潜り込んできているタイガが自分の腕にしがみ付いてスヤスヤ眠っている。
 その安らかな寝顔は夢の時の表情とは程遠い。
 ただの悪夢であって欲しい、俺はそう願いながら再びベッドに身体を沈めた。
 だが、あの夢の情景があまりにリアルすぎて、まるで現実のようにしか思えない。
 夢のことを思い出すたびに身体が震え、俺はその夜殆ど眠ることができなかった。


 次の早朝、レツ達一行は雷の国と闇の国の国境のゲートに立っていた。
 レツの目の前には見送りに着てくれたステラとベガが立っている。
 こうして見ていると、先日ガオウを退け、ブブリィを葬る突破口を開いた戦いをした者だとは到底信じられない。
 まだ日が上がって間もないためか、レツと見送りのステラ、ベガ以外には誰もいなかった。
「いろいろ世話になったな」
レツが手を出すと、ステラがその柔らかい手でレツの手を優しく握ってくれた。
 ふだんそんな経験のないレツは一瞬にして顔が赤くなる。
 そんな様子を見ていたのか、背後からトウマとイレーヌのクスクス笑う声が聞こえてくる。
 レツは照れ隠しにゴホンと咳払いをすると、改めてステラとベガの顔を見た。
「アンタ達の協力がなければガオウにもブブリィにも勝てなかった。本当にありがとう」
レツが心を込めて感謝の言葉を述べると、ステラはゆっくりと首を横に振ってそれを否定した。
「私達がいたから勝てたわけではないわ。貴方やタイガ君の誰かを守りたいという気持ちがあの二体の魔将を退けたの。私達はその想いを力に変えただけ」
「は、はあ……」
「だから忘れないで。何のために戦って、誰を守りたいのか、そのためには誰と戦えばいいのかを……」
哲学的な話に戸惑い気味のレツに、ステラがまだわからないわねといった様子で優しく微笑みかける。
「俺、そういう難しい話は……」
「そう難しく考えなくてもいいわ。ただ、自分の守りたい人のために動けばいいのよ」
そういうステラの言葉には不思議と重みがあった。
 誰かのために戦う強さは、昨日の二人の戦いで目に焼きついている。
 それがレツに強い説得力を持たせているに違いない。
「そろそろお時間です」
二人の話を打ち切るように、ベガが時を告げた。
 彼女の言葉を合図にするように、金属製の門が地響きを立てながら開く。
 開いた門の先に広がっていたのは、深緑の森林地帯だった。
 森の国と呼ばれる闇の国の入り口である。
「少しいいかしら」 
レツ達が森林へと足を踏み入れようとした瞬間、少し距離を離れて立っていたラフロイズが意を決したように声をかけてきた。
「レツ・ランページ、カイル・クレイトー両名に勇者の武器の管理人として話があります」
改まった態度のラフロイズの言葉に、カイルとレツは歩みを止めて彼女の方を向いた。
「ここから先、レツ・ランページとカイル・クレイトーに我々の勇者、つまりカッツの身柄と武器の管理権を委任します」
「え!?」
ラフロイズの言葉を全く想定していなかった二人は揃えて驚きの言葉を発した。
 だが、彼女のその真剣な眼差しはウソや冗談を言っているようには全く聞こえなかった。
「確かに、規約の中では貴方は勇者の武器の管理権を、同じ管理人に委任できる。だが、それは勇者の従者が得られる全権利、保障をも放棄することになるがいいのか?」
カイルの確認の質問に、ラフロイズは躊躇うことなく頷いた。
「ええ。私より、貴方達の方がこの子を、カッツを幸せにできるわ」
「そんなことは……」
「それに私、この国でしなければいけないことができたのよ」
カッツの説得を遮るように放たれた彼女の決意は、その表情にも表れていた。
 その言葉に満ちた覚悟と決意に、レツとカッツは思わず圧倒されていた。
「……随分と都合のいい話だな」
今までずっと黙っていたカッツが突然口を開いた。
 その視線は今まで以上に鋭く、レツやカイルでさえ一瞬たじろぐほどの圧力だった。
 今までの彼女ならその目線に圧倒されすぐさま態度を変えていたのだろうが、今の彼女は悲しげな笑みを彼に向けつつもその態度を改めようとはしなかった。
「ええ。無責任だと思われても、私は一向に構わないわ」
「……」
「けれど、これが私なりに考えて出した結論なの」
彼女の言葉を聞いて納得したのかレツにも、その場にいた全員にすらわからなかった。
 ただ、カッツはそれ以上何も言わず足早に森林の中へと姿を消していっただけだった。
 彼を見失わないように、チーコやトウマも慌てて門を潜って森の中へと消えていく。
 別れの名残も惜しむ暇もなく、レツ達も慌てて門を潜っていく。
 それを合図にしてゲートの扉がゆっくりと閉まっていく。
「それじゃ、まったねー!!」
別れ際、タイガが両手を精一杯振ってステラ達に別れの声をかける。
 閉じていく門の隙間から、ベガとステラが笑顔で手を振っているのが見える。
 それも僅かな時間で、金属がぶつかる音と共に門は閉じ、自分達の目の前には金属の門が横たわるだけであった。
「ほら、行くぞ」
背後から聞こえるカイルの声に促され、レツとタイガは闇の国と呼ばれる広大な森林の中へと足を踏み入れていった。

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