鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その2【トラシアでの戦い】 □

俺は世界を……【トラシアでの戦い・その9】

 魔物たちが姿を消し、静寂が町を包む。
 その静寂が住人達に安全を伝えたのか、地下室や物置などから住人達がぞろぞろと出てくる。
 彼らは手早く街の復旧や消火を分担して行っていく。
 皮肉だが、こうやって破壊された町を修復することには慣れているのだろう。
「勇者様!!」
町を復旧する動きの中で、村長を中心とした数人の村人がレツ達のもとに駆け寄ってくる。
 深い傷を負い、レツの腕に抱かれている勇者の姿を見て驚きを隠せないようだ。
「先ほど村を襲撃した魔物はどうなされましたか……?」
「それは……」
村長の質問にレツは言葉に詰まった。
 勇者ですら歯が立たなかった相手を、突然乱入した少女がスプラッタにしたと言って誰が信じるだろう。
 性質の悪い冗談だと信じてもらえないのが関の山である。
「奴らは我々で始末した」
レツの変わりに口を開いたのはミカエルだった。
 倒した本人がいないのだから、自分達の手柄にする、傭兵の中では常識なのだろう。
 さすが歴戦の傭兵、ハッタリのかまし方も道に入っている。
「だが、上級の魔物との戦闘で勇者が負傷してしまった。できれば休む場所と医薬品、包帯を提供していただきたい」
まるで自分の手柄のように話を進めるミカエル。
 レツは少し呆然としながらその様子を見守るしかなかった。
「場所なら私の家が無事だから使うといいよ」
一人の女性が申し出る。
 それは市場でであったあのおばちゃんであった。
 おばちゃんはレツ達と目が合うと、軽くウィンクしてみせた。
 そういう気遣いが今はものすごくレツにはありがたく感じられた。
「だが、問題は包帯と医薬品でな……」
村長が困り果てた様子で言った。
 レツとミカエルは自分達の周囲を見回した。
 村は全滅こそ免れたものの、全壊、半壊の家が多く、怪我人もいたるところで手当てを受けている。
 只でさえ医薬品が品薄だった状況で、今回の襲撃が決定打になったみたいである。
 だが、タイガもレツの腕の中で苦しげに息をしている。
 一刻も早く手当てをしなければ、タイガだって危ないのである。
「仕方ない、一晩かかるが俺がタイガ背負って隣の町まで……」
そういって、レツがタイガを背負おうとタイガを自分の背中に持たれかからせた時だった。
「応急グッツならあるニャ」
猫の鳴き声のような声がレツ達の背中から聞こえてくる。
 振り向くと、身長130cmほどのリュックを背負った一匹のシャムネコが二本足で立っていた。
 手には杖と呼べるほどに柄が長いピコピコハンマーを手にしている。
 その猫は尻尾をピンと天に立て、ゴロゴロと喉を鳴らしていた。
「月猫族か……」
ミカエルが渡りに船とばかりに猫を見ていった。
 月猫族とは行商を生業にしている二本足で歩く猫のことである。
 月の国に国家を形成し、最近では世界中に出向いてはビジネスを牛耳っている。
 生まれつきエルフに比肩する非常に高い魔力を持ち、勇者の助けなしで魔物から自衛が行える数少ない種族である。
 レツも一人で修行のたびをしていたときに何度か目にしたことがあった。
「その応急グッツを売ってくれないか?」
「ガーゼに消毒剤、包帯に、痛み止め、止血剤に睡眠導入剤に精力増強剤、果ては本当に天国にブッ飛べるイケナイ薬もあるニャ」
レツの申し出に、猫はリュックから包帯やガーゼ、薬瓶の数々を出して見せた。
 地獄に仏とはこのことである。レツは感謝しながら、包帯に手を伸ばした。
「ただし、売るには条件があるニャ」
そう言って猫はレツが包帯を掴む前に商品をリュックに戻してしまう。
「どうやらおいらが一番乗りニャ……」
猫は周囲を注意深く見回して何かがいないことを確認すると、ゴマをすりながらレツの足に擦り寄った。
「おいらを……勇者のお抱え商人にして欲しいニャーン」
喉をゴロゴロと鳴らしながらおねだりをするようにレツの腿に何度も顔を摺り寄せる。
「お、お抱え商人!?」
「勇者の一行が使う物資や、宿屋の手配などを代行する商人のことだ。こういうサポート体制は早めに整えておくべきだな」
レツの疑問に先回りするようにミカエルが解説する。
 たしかに食料や医薬品をすぐに手配して仕入れてくれる存在がいれば、自分達は魔物との戦いに専念できる。
 そう考えれば今この場でこの猫と組むのは得策。それに何より今はタイガの手当てをする薬がほしい。
 足りないレツの脳みそでもそういう結論に至った。
「わかった、それじゃ、頼めるか?」
「その前に」
ミカエルが急に口を挟む。
「契約内容に、魔法での後方支援攻撃も追加してもらおうか」
ミカエルの要求に猫は頭を摺り寄せるのを止め、首をあげた。
「オプション料金がかかるがいいかニャ?」
「レツ、かまわないな?」
ミカエルがレツに確認を促す。
 確かに月猫族の強力な魔法はこれからの旅の助けになる。
 そうすれば、タイガを危険な目に晒すこともないわけだ。
 あの力を使わせないで済む。
 レツには考えることすら不要だった。
「じゃあ、頼めるか?」
「ニャ、このチーコ・ウタタネスキーにお任せあれニャ」
猫は右手の肉球をレツに見せ、意気揚々とヒゲを前に出した。
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