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鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その10】

「くそっ、くそっ!!」
一瞬の逆転劇に、ユダは完全に冷静さを失っていた。
 チーコとイレーヌ女史に剣の力は阻まれ、接近戦ではカッツ相手に手も足も出ない。
 これが八方塞でなければ、どんな状況をそう呼べばいいのかと問いたくなる。
 まあ、八方塞なのは敵のほうだからいいのだが。
「さあ、武器を捨てて投降しろ」
「……投降して、どうなるってんだ」
「貴様は教団本部で職務放棄及び殺人の罪で裁判を受け、裁かれる。それまでは我々が貴様の身柄を確保させてもらうがな」
「……いんだよ」
「は?」
「ないんだよ、俺達にそんな権利」
俺に対して、ユダは悲しげにそう答えた。
 これは俺達を油断させるための心理的なパフォーマンスなのか?
 だが、その表情は俺には嘘偽りのない、悲しみの表情にしか読み取れなかった。
 俺が心の内を読む術がまだまだ未熟なのか、それともこれは奴の本当の言葉なのか……?
「だから、ここで捕まるつもりはねぇんだよ!!」
ユダは一瞬の隙を突いて地面を蹴ると、スキンヘッドの男の骸の傍らに駆け寄った。
 そしてその手に握られた赤茶けた針を握ると、眼帯の男と同じようにトウマの方に向かって投げつけたのだ!!
 針は一直線に勇者を担いで身動きの取れないトウマに向かって飛んでいく。
「うわわわわわわ!?」
トウマが一瞬体のバランスを崩す。
 その結果、赤茶けた針はトウマではなく彼が背負っていた青い髪の勇者のわき腹に刺さった。
「さぁ、目の前にいる連中相手に死ぬまで暴れなぁ!!」
ユダはそう青い髪の勇者に告げると、森の中に一目散に駆け出した。
 逃げ出す奴を前にして俺はユダを追うことはできなかった。
 奴はあの針の効能を把握していた。
 俺が状況判断だけであの針の効能を察したのだ、奴に同じ芸当ができたとしてもなんら不思議ではない。
 そして自分が安全に逃げるために使ったのだ。
 つまり、この次の瞬間……!!
「ああああああああああああああああ!!」
俺が振り向いた時には、既に勇者は悲痛な叫び声を上げてトウマを突き飛ばしていた。
 トウマが二人の勇者と共に地面に倒れこむ。
 青い髪の勇者は必死に抗うような素振りを見せながらも、針の力には抗えぬようで震える腕でランサーを握りトウマに向かって振り上げた。
「ちょ、ちょっとタンマ!!タンマだって!!」
トウマが尻餅をついたまま両手を上げて対抗するつもりはないと必死に示すが、青い髪の勇者は容赦なくランサーを振り下ろした。
 カッツと俺が既に動いていたが、間に合う距離ではなかった。
 トウマは恐怖に体が凍り付いていて、自力で逃れるのは期待できない。
 一寸後にはトウマの頭はかち割られて、鮮血の噴水が上がっている事だろう。
 迂闊だった、奴の性格と知恵を考慮すれば十二分に考えられる状況だったというのに!!
 俺まで前に出る必要はなかったのだ。
「だめだ、にーちゃ!!」
そう叫んで立ち上がったのは緑の髪の勇者だった。
 彼は手にしていたブーメランでランサーを受け止めると、トウマと青い髪の勇者の間に割って入った。
 二つの武器がぶつかり、力比べを始める二人の勇者。
 だが、まったく同じ体格である二人のつばぜり合いは青い髪の勇者が優勢だった。
 青い髪の勇者のランサーに押しつぶされるように、緑髪の勇者が片膝をつく。
 あの針には勇者の力を無理やり限界以上に引き出す効能まであるのか?
「にーちゃ、俺達、勇者だ!!勇者が魔物以外の奴傷つけちゃだめだ!!」
「く……あ……」
「にーちゃ!!」
「お、俺だってイヤなんだよぉ……」
青い髪の勇者が悲痛な声を漏らす。
 緑の髪の勇者が両膝をつき、もう限界が近いことを俺達に知らせる。
 だが、もう問題はなかった。
 彼が時間稼ぎをしてくれたおかげで俺達が駆けつける時間が確保できたのだから!!
「ニャー!!月光縛設置ニャ!!」
チーコが何mも飛び上がると、落下の勢いを利用して青い髪の勇者の足元にハンマーを叩きつける。
 ピコッという音と共に、地面から黄色の電撃のようなものが走り、近くにいた勇者二人とトウマを絡め取った。
「し、しびびびびびびれるぅ!!ここここここのクソ猫、なななななな何しやががががががった!?」
「本来は罠に使う設置タイプの麻痺の魔法ニャ。足元に直置きすれば普通に使える上に、普通の麻痺魔法よりグゥレイトに効くニャ」
「だだだだだだから、なななななんでででで俺までででででぇぇぇ!!」
「戦いに犠牲はつきものニャ」
チーコはそう言ってトウマから視線をそらした。
 コイツ絶対わざと巻き込んだなと心の中で俺は思った。
 トウマはともかく、麻痺の魔法は二人の勇者にも聞いたようで力比べの体勢のまま二人は固まって動かない。
 俺は青い髪の勇者の背後に立つと、赤黒い針を握った。
 青い髪の勇者が油の切れたブリキの鎧のようにギギギと振り向き、泣きそうな顔で俺を見上げた。
「た、助け……」
「もう大丈夫だからな!!今抜くぞ!!」
俺は針を一気に勇者の体から引き抜いた。
 針を抜いた瞬間、力なくその場に倒れこむ青い髪の勇者。
 ぐったりとして動かない兄を俯いたまま抱き寄せる緑の髪の勇者。
「クソったれが……!!何をしている!!早く奴を追え!!」
そう悪態をたれ、鼻頭を押さえながら眼帯の男が上半身を起こした。
 振り向くと、当たり前の事だがユダの姿はなかった。
「大丈夫、彼はそう遠くにいけないわ」 
杖を収めたイレーヌ女史が辺りを見回しながらそう言った。
「濃霧が出始めている……しばらくしないうちに霧で身動きが取れなくなるわ」
「霧……?」
「このあたりは濃い霧が出ることで有名なの。私たちも視界を奪われる前に安全な場所に移動しましょう」
イレーヌ女史の言うとおり、木々の間が白いモヤで埋まっていた。
 先ほどの戦いのせいで、モヤの中に人の顔が出てきそうでひどく落ち着かないのは俺だけだろうか。
 とにかくここから移動しなければ、俺は立ち上がれないでいる眼帯の男に手を貸した。
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