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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その11】

 幸いにも我々はすぐ近くに複数の洞窟を発見した。
 あたりは既に数歩先まで霧で視界を奪われ、あと少し発見が遅れていたら霧の中で立ち往生ということになりかねない状況だった。
 先客としてユダがいたらどうしようかと思ったが、幸か不幸か中には人がいた形跡は無かった。
 とはいえ以前ここで野宿を行った者がいたみたいで、焚き火の跡や雑魚寝できる程度の平たい場所は整備されていた。
 我々は火を起こすと、霧が晴れるまで休憩をとることにした。
 外では小雨がぱらつき、雨が葉に当たる音が周囲の音を完全に掻き消す。
 洞窟の外に何かがいても全くわからないのがかなり不気味に感じられる。
 眼帯の男は本人の言うとおり、本当に勇者の従者だった。名前をブラッドマンといった。
 彼は教団から勇者ユダの逮捕の任務を受け、仲間達と共に彼を追っていたらしい。
 ようやくこの森でユダを追い詰めたものの、奴の使う能力の前に太刀打ちできず仲間を次々と失ったらしい。
「すまねぇな、助けてもらった上に手当てまでしてもらってよ」
眼帯の男は金属のマグカップに入った茶を啜りながら、感謝の意を述べた。
 洞窟の奥では二人の勇者が寝かされていた。
 二人の枕元で末っ子らしき勇者がオロオロしながら二人が目を開けるのを待っている。
 こちら側の被害はトウマが尻餅をついた程度で済んだのだが、あちら側の被害は甚大なものだった。
 勇者三人と従者を除いて全滅、しかも勇者も三人のうち二人が重傷を負っている。
 勇者三人に熟練の剣士が立ち向かっても歯が立たないほどユダの能力は驚異的であり、イレーヌ女史やチーコがいなければ今頃は我々も同じ運命を辿っていただろう。
 この一行の人選の一貫性のなさには度々疑問を抱く事があったが、その一貫性のなさが今回は功を奏したとも言える。
「自己紹介が遅れたな。俺の名前はブラッドマン。あそこで寝てやがるのが、ウチのクソ勇者どもだ」
眼帯の男、ブラッドマンはそう名乗ると、洞窟の奥にいる勇者達をマグカップで指し示した。
 その口調から、レツとタイガのような信頼関係が築かれているようには見受けられなかった。
 むしろその口ぶりからブラッドマンが勇者達を毛嫌いすらしているのがわかった。
 勇者……か、そうか、勇者には普通名乗る名前はないのだったな。
 今更ながら、自分達の特異さが改めて認識させられる。
「俺達は教団からユダを捕獲するために任務を受けた。その証拠が……コレだ」
ブラッドマンは腰の袋からさっきの戦いで見せた桐の箱を取り出した。
 中を開けると、そこにはさっきの戦いで回収した赤茶けた色の鉛筆ほどの太さの針が綿に包まれて入っていた。
 その効能は先ほどの戦いで薄々察しはついている。
「コイツは勇者の体内に差し込むと、その勇者の体の動きを停止させる代物らしい。しかも差し込んだ相手の命令を体が勝手にやっちまうっていうオマケつきだ」
「つまり勇者を文字通り操り人形にするわけか……」
「ああ。標的が物騒な力を使うっていうんで、教団が捕獲時の縄代わりにくれたのさ。アレをユダとかいう勇者の野郎に差し込めば任務完了……ってな訳だ。ま、うちの勇者どもがクソ過ぎるせいで針を挿すどころじゃないんだがな。3人もいるんだから、一人ぐらい相打ちにになってくれりゃ楽だったんだがな」
ブラッドマンが話す内容を、俺はどんよりとした気分で聞いていた。
 彼が勇者を操る事に何の良心の呵責も持ち合わせていないことにではない、教団がそんな非人道的なものを公式に所有していると言う事が俺にとっては驚きだった。
 確かに勇者は教団と人民を守るために神に選ばれた聖なる戦士だ。
 だが、それ以前に彼らは人間であり、しかもまだ遊びたい盛の年端も行かない少年達なのだ。
 そんな彼らの身体にあのような鉄芯を挿しこみ、半ば強制的に動かすという発想がそもそも俺には受け入れられなかった。
「コイツは強烈だぜ。この針があれば、どんなに反抗的な勇者も可愛い子猫ちゃんに変身だ。俺達に渡す前に、勇者の身体に一本ずつ挿しておいてほしいよなぁ?」
「……」
「こないだなんか、上二人が反抗的だったもんで、一番下の勇者に針を差し込んでこう命じてやったのさ。『お兄ちゃんたちにお仕置きだ』ってな」
どんどん饒舌になっていくブラッドマンに対して、俺の心はどす黒いモヤに閉ざされていく気分だった。
 勇者とは何だ?戦うために消費される兵器なのか?
 まっすぐ飛ばない矢は無理やり伸ばせばいい、そういう発想で勇者を見ているのか?
「そしたら、いきなり兄貴達に殴りかかってよ。最後は血だらけになって失神するまで殴り続けやがったんだ。泣いて謝りながら兄貴にマウントしてバキバキ殴ってるんだぜ?」
「なんでそんなことを……」
「弟が怪我をしてるから休ませろ、なんて生意気に要求しやがるからでさぁ。大人しく言う事を聞いてればいいものを……」
これが勇者?これが従者?
 これが教団の望む勇者と従者の関係なのか?
 これでは、奴隷と所有主の方がよっぽどまともな関係といえるんじゃないか?
「そういう一人前の要求は魔将の一匹でも倒してから言えってんだ。勇者の癖に大型の魔物一匹満足に倒せねぇって時点で存在価値がねぇんだよ」
「だからって、そんな仕打ちをしていい道理には……」
「騎士様のように立派な勇者様を所有されている一行にはわからない悩みってもんですぜ。さあ、てめぇら立ちやがれ!!」
ブラッドマンは残った茶を飲み干すと、洗い桶にマグカップを投げ込みゆっくりと腰を上げた。
 声をかけられた末っ子の勇者はオロオロするばかりだ。
「さっさと二人を起こしやがれ!!さもねぇと針刺して、『お兄ちゃんたちに目覚めの一発くれてやりな』って命じるぞコラ!!」
「ご、ごめんなさいっ!!すぐ起こします!!」
緑色の髪の勇者は慌てて兄二人を揺すり起こすと、まだ満足に身動きの取れない兄二人の腕を肩にかけて立ち上がった。
 兄二人を支え、緑色の髪の勇者は足を引きずりながらブラッドマンの元へと歩いていく。
 その表情はさながら絞首台へと向かう死刑囚のように、この後に訪れるであろう恐怖と絶望に凍り付いていた。
 確かにあの針は勇者にとって恐怖の対象になり得るが、それだけでここまでひどく怯える事はないだろう。
 ここまで彼を怯えさせる何かがあるはずだ。
「どこに行くの?まだ治療は終わっていないわ」
「コレで十分さ、エルフのお嬢さん。それに俺たちゃ、今からやることがあるもんでね」
「やること?」
「俺達なりの『反省会』さ」
引き止めるイレーヌにブラッドマンはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら答え、足元にあるランプを拾い上げた。
「ヒッ!?」
反省会という言葉を聞いた瞬間緑色の髪の勇者が過剰に反応した。
 表情がさらに強張り、冷や汗が一斉に吹き出して、落ち着きを失った視線は当てもなく宙を彷徨っている。
 ブラッドマンはそんな勇者の髪の毛を掴むと、まるで3人を引きずり出すように洞窟の外へ出た。
「それじゃ、俺らは隣の洞窟にいるからヨロシク」
ブラッドマンはそう言い残すと白一色に埋め尽くされた霧の中へと消えていった。
 助けて、洞窟から出る際にこちらを見た勇者の目がそう言っている様な気がした。
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