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鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その14】

引くに引けなくなった俺は観念してマントの留め金を外した。
 ファサという静かな音と共に、耐魔の処置を施された真紅のマントが地面に落ちる。
 ブラッドマンは早くしろと言わんばかりに顎で合図をする。
 言われなくてもわかっている、俺は鎧の留め具を外す。
 乾いた金属音と共に、白銀の鎧が地面に落ちる。
「やるねぇ、騎士さん。んじゃ、もうひと頑張りだぜ」
「調子に乗って……」
「何か言ったか?」
「……何でもない」
俺は汗で張り付くインナーの上下を一気に脱いだ。
 竜の翼膜で作られたこのインナーも、湿った地面にグシャリという音を立てて落ちる。
 残るは下着一枚だった。無論この一枚も……。
「さぁ、早くしな」
ブラッドマンに急かされ、俺は最後の一枚を……脱いだ。
 そしてカッツ達に背を向けるように壁に手をつく。
 ヒュウという口笛の音が響き、ゆっくりとブラッドマン足音がこちらに近づいてくる。 
 カチャカチャというベルトが外れる金属音が聞こえる。
 もう始まるのか……怖い……逃げたい……でも、ここで逃げたら……。
 俺は腹を括って、歯を強く食いしばった。
「ニャー、取り込み中申し訳ないニャ」
不意にチーコの声が聞こえて振り向くと、俺達の背後に伝票を持ったチーコが立っていた。
 チーコはさっきまでの緊迫した空気を知る由もなく、暢気にヨチヨチとブラッドマンの前に進み出る。
 そして手にした伝票をブラッドマンに手渡した。
「な、なんじゃこの金額は!?」
伝票を見たブラッドマンの声が裏返った。
「今回の救助および魔法使用料金の請求書、それと現在の護衛請負契約における代金の見積書ニャ」
「お、おい、いくらなんでも法外すぎるぞこの金額!!」
「オイラ達が来なかったら、ユダとかいう勇者の使う死霊の仲間入りだったニャ。これでも安いと思うニャ」
「チィ、わかったぜ」
ブラッドマンは舌打ちをすると、腰にぶら下げた小切手の束に手をかけた。
 この小切手は勇者一行が支払う全ての金を教団が代行する為にあるものだ。
 我々も一冊所持しており、これのお陰で俺達は金銭的な問題とは無縁な旅をすることができるのだが……。
「教団の小切手はやめて欲しいニャ。支払いは現金か金融機関発行の小切手でお願いしますニャ」
「はぁ!?こんな大金あるわけねーだろ!!」
「あの小切手は教団の施設じゃないと換金できないニャ。不幸にもこの先の闇の国には教団の施設がないニャ」
「このクソ猫……足元見やがって!!」
「今の発言を債務不履行の意志とみニャして、あの霧の中に叩きだしてもいいかニャ?ここらへんは大型の魔物がガッツリいるニャ」
チーコはそう告げると、ピコピコハンマーをブラッドマンの鼻先に突きつけた。
「と、とにかく、今は現金はねぇんだ。支払いはもうちょっと待ってくれ」
「仕方ないニャ。じゃあ……」
チーコは自分のヒゲを指で弄りながら、ゴロゴロと喉を鳴らす。
「債務履行を確認するまでの間、質権を援用してお客さんの勇者を差し押さえさせてもらうニャ」
チーコの言葉に愕然とするブラッドマン。
 してやったりとニヤリと笑うチーコ。
 俺は完全に忘れていた。我々の一行にはブラッドマンを遙かに凌駕する鬼畜がいるということを……。
「はぁ!?相手は人間だぞ!?質に取れるわけねーだろ!!」
「勇者の処遇は従者が決めるニャ。お客さんが質に出すって言えば、それがまかり通るニャ。それか、勇者以上に価値があるものがあればそれでもいいニャ」
「てめぇ……!!」
「お客さんみたいに自分をワルだと思い込んでるマヌケをハメる程楽な事はないニャ」 
毒づくブラッドマン相手に、チーコは余裕たっぷりにあくびをして見せた。
 チーコが指を鳴らすと、霧で閉ざされた外からトウマが飛び込んできた。
「おいおい……マジかよ……」
トウマは中の情景に一瞬驚いた様子だったが、チーコと目で会話をすると壁に手をつけて動けないでいる末っ子の勇者から針を引き抜いた。
 どうやら最初からそうする手はずだったらしい。
「もう大丈夫だぜ、あっちに美味いスープあるからな」
「うえええええ、うえええええ……」
堰を切ったように泣きじゃくる末っ子に上着を羽織らせて、残りの服をトウマが持つ。
 緊張の糸が切れて、感情を自分でもコントロールできないのだろう。
 次にトウマは手際よく地面に倒れこむ寸前の兄二人を抱え起こした。
 二人の傷に触らないように、トウマはゆっくりとした足取りで洞窟の外に三人を連れ出していく。
「弟、守ってくれて……」
「ありがとう……」
去り際に赤い髪と青い髪の勇者がか細い声で俺に感謝の言葉をくれた。
 俺は情けなくなって、目から溢れる涙を抑えることができなかった。
「お客さんも熱いスープで身体を温めるニャ」
「チッ、だから月猫は苦手なんだよ……!!」
チーコのピコピコハンマーで背中を突かれ、ブラッドマンが洞窟の外に押し出される。
 その後ろからチーコがニャと肉球を見せながら洞窟を後にする。
 残されたのは俺とカッツの二人だった。
 助かった……そう思った瞬間、全身から力が抜けて俺はその場にヘナヘナと座り込んでしまった。
 俺は震える手でマントを掴むと、毛布代わりにして包まってガタガタと震える身体が収まるのを待つしかできなかった。。
 カッツはそんな俺を無言で見下ろしていた。
 無様な格好の俺を見て、またいつものように見下して、心の中でせせら笑っているのだろう。
 いつもなら悔しさと腹立たしさが同時に襲ってくるのだが、今日は全くそんな気は起こらなかった。
 お前の言うとおりだよ、カッツ。
 俺は無力で世間知らずで、何もできない奴だ。
 勇者を救うどころか、ブラッドマンの口車に乗せられて、守るかどうかわからない約束のために陵辱されかけた。
 俺は騎士なんかじゃない。俺は何も守れない。
「何だよ、何見てんだよ……。そんなにこの格好がおかしいかよ……」
「……いえ、何も」
「こんな誰も守れない奴みてて何が面白いんだよ……。なにが十字騎士だ、偉そうな名前してても結局何もできないじゃないか!!」
「ちがいます」
カッツが低い声でそう言った。
 小さな声だったのに、その声は雨の音にかき消される事無く洞窟の中に響き渡った。
 その透き通るような声に俺は思わず顔を上げた。
「誰かに守ってもらえたの……初めてだったから……」
「え……?」
「俺達なんかのために……ありがとう。それと……」
「それと……?」
「ごめんなさい」
カッツはそれだけ言うと、逃げるように洞窟から走り去ってしまった。
 ありがとう……ごめんなさい、カッツが言った言葉が頭の中を何度も何度も駆け巡る。
 いろんな思いが頭の中で交錯して、俺はマントに包まったまましばらくその場を動く事ができなかった。
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