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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その16】

「あー、そうか。勇者は名前がないんだっけ……」
トウマは勇者達が首を傾げた理由に気づき、気まずそうに頭をかいた。
 基本的に勇者の名称は勇者であり、タイガやカッツのように名前をつけるのは限りなくイレギュラーな事なのだ。
 それは勇者は勇者であれば良いのであって、それ以外の何かになる必要がないからなのだろう。
 よくよく考えてみれば残酷な話だ。
「タイガはレツの旦那が名づけたんだな。そういえば、カッツは何でカッツって名乗ってるんだ?」
「レツさん達と初めて会ったときに、勇者と知られないように適当にその時に目に付いた酒の名前を名乗っただけスよ」
「じゃあ、グレンギリー達に名づけてもらった訳じゃないのか……」
「あの二人がそんな事するわけないスよ。所詮はその場の思いつきで作った名前、その程度ス」
「じゃあ、今の名前に思い入れとか……ないわけ?」
「ありませんね。そのままズルズルと周囲が勝手にカッツって呼ぶんで呼ばせてるだけス。なんなら勇者に戻してもらっても構いませんが?」
カッツは冷めた様子でトウマの質問に答えた。
 トウマも少し残念そうな様子で溜息をつくと、それ以上何も尋ねることはなかった。
 いい答えは期待してなかったにせよ、ここまでキッパリと断言されるとは思っていなかったのだろう。
 周囲がそう呼ぶから、勝手にそう呼ばせているだけ。
 勇者にとって名前とはその程度の邪魔な存在なのか。
 タイガも自分の名前に対して同じような思いでいるのだろうか。
 もしそうだとしたら……死んだ弟の役目を勇者に押し付けたと言う原因はあるにせよ、レツがひどく不憫だ。
「いいなぁ、俺も名前欲しいなぁ……」
暗い方向に傾きかけていた中に、末っ子の勇者の一言だった。
 指をくわえて、まだ食べ足りないような仕草をして俺の方を見ている。
「バカ!!俺達は勇者だぞ!!」
「名前なんかあってどうするんだ!!」
名前を欲しがった末っ子の頭を兄二人がそう言って小突く。
 末っ子の勇者は口をへの字にしてそのまま俯いてしまった。
 二人の兄は気まずそうに互いに顔を背ける。
 ああは言っていても、本音では名前が欲しいのだろう。
「私は勇者に名前があってもいいと思うわよ」
「ほんと!?」
末っ子の勇者に加勢したのは意外にもイレーヌ女史だった。
 目を輝かせて聞きなおす末っ子にイレーヌは笑顔で、ええ、と答えた。
「自分だけの名前で呼んでもらえるというのは、全ての人に与えられた当然の権利よ。勇者だけが自分だけの名前を持っちゃいけないというのはおかしいもの」
「じゃあ、俺も、真ん中にーちゃんも、上にーちゃんも名前もらってもいいの!?」
「ええ、そうよ」
彼女がそう断言すると、末っ子だけでなく兄二人の目を輝かせてイレーヌ女史の前に身体を乗り出した。
「ほんと!?」
「本当に!?」
三兄弟はプレゼントを貰う子どものように目を輝かせて尋ねた。
 いや、三人にとっては自分だけの名前と言うものはそれだけの価値のあるものかもしれない。
 生まれてきた時に当たり前のように名前を与えられた我々には推し量れないが。
「おい、勇者に変な事するなよ」
「担保の資産価値を損ニャわニャければ、我々は利用する事ができるニャ。名前付けたくらいで価値が下がるとは思えニャいニャ」
横槍を入れようとしたブラッドマンにチーコが牽制をかける。
 何も言い返せないブラッドマンはチッと舌打ちすると、ポケットから携帯の酒瓶を取り出すと一気に呷った。
「で、誰が名付け親になるんだよ?」
「犬や猫に名前をつけるような言い方するなよ……」
「メンゴメンゴ。普通に考えると、文字通り身をもって三人を助けたカイルの旦那になるのかな?」
「その言い方やめろ。俺なんかじゃまともな名前つけられないぞ」
「まー、結婚して子供ができた時の予行演習って事で」
「馬鹿かお前は」
俺はトウマの軽口を窘めると、俺は腕組みをして考え込んだ。
 名前と言うものはその人の一生を左右する大事なものだ。
 子供を授かるどころか、結婚経験すらない自分にそんな大役が務まるかいささか不安であった。
 そもそも俺なんかではなく、こういう場合知識に長けたイレーヌ女史の方が適任なのではないか?
「そうね、カイル君に一番懐いているし、一番適任ね」
俺の逃げ道を塞いだのをしってか知らずか、イレーヌ女史は微笑みながら答えた。
 チーコは極力話を振られないように耳を伏せて自分の茶碗をペロペロ嘗め回している。
 助け舟を期待するだけ無駄な状況である。
「お、俺が!?」
「カイル君なら大丈夫よ」
俺なら大丈夫って……逆に不安の方が大きいのだが。
 しかし、三人の兄弟の期待に輝く目を見てノーと言えるほど俺は胆の座った人間ではない。
 生憎自分にはレツのように思い入れのあって、なおかつ都合のいい名前なんか持ち合わせていない。
 なのに三人分の名前を考えなければならないのだ。
 子供が生まれてみたら三つ子だった父親の気分はこのようなものだろうか。
「うーん……」
俺は顎に手をあて、貧弱な思考力を最大まで稼動させて三人に似合いそうな名前を引っ張り出そうと試みた。
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