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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その19】

 チーコのいう面白い場所とは、洞窟の奥にある、人一人が屈んでやっと通過できるほどの苔むした横穴の先にあった。
 数分ほど身を屈めて進んでいると、目の前が一気に解放される。
 そこにあったのは巨大な洞穴だった。
 周囲には鍾乳石はビッシリとひしめき、片隅には地底湖の入り口らしき小さな泉まであった。
 恐らく長い時間をかけて地面が侵食されてできた巨大な鍾乳洞なのだろう。
 教科書などでその存在は知っていたが、こうして実際に目にかかることになるとは思ってもみなかったが。
「ここニャら霧やら外の天気に関係ニャく運動できるニャ」
そういいながらチーコは大きく背伸びをして見せた。
「すげぇ……」
「でっけぇ……」
「つらら……」
後から入ってきた三兄弟も周囲の風景に目を奪われていた。
 こんな見事な鍾乳洞、めったに見られるものではないから不思議ではない。
 ましてや、戦うこと以外何も知らない勇者ならなおさらだろう。
 本当ならしばらくここを見せてやって、遊ばせてやりたいが、そうもいかない。
 基礎的な能力を上げるよりも簡単に効果が出るとはいえ、雨が止み、霧が引くまでの短い時間で彼らの戦い方を矯正せねばならないのだ。
 時間に余裕が無いのは誰の目から見ても歴然であった。
「じゃ、これで失礼するニャ。怪我したらちゃんと連絡するニャ」
チーコはそういい残すと、横穴の中に潜り込んでいった。
 今は時間が惜しい、少しでも早く練習を始めなければいけない。
「よし、まず連携の練習からはじめるぞ!!」
「あの、ちょっといいスか?」
俺が手を叩いて三兄弟の注意を引こうとしたと同時に、カッツが横穴からひょっこりと現れた。
 一体何の用なのだろうか?
「どうした、カッツ?」
「そ、その、カイルさんの代わりに俺が、その、三人の相手しようかな、と」
「カッツが?」
「は、はい。相手は一応勇者なんだし、カイルさんがまともに相手してたら体が持たないスよ?」
「そ、それは確かにそうなんだが……」
「だ、だから、三兄弟の相手役は俺が引き受けるんで、カイルさんは横から見てて注意してやってください。ただでさえ弱いんだから、戦う前から大怪我してたら恥の上塗りだと思うんス……けど」
カッツは相変わらずの俺から目を逸らして、皮肉たっぷりの口ぶりで言うと、俺のかわりに三人の前に立った。
 ただ、いつもと違って顔が少し赤らみ、言葉の端々がどもっていたのが気になった。
 普段は他人のことはあまり興味を示さないカッツが珍しく協力的になっているのも妙である。
 やはり同じ勇者だから気になるのか、それとも彼なりに隣の洞窟での一件を気にしているのか……。
 俺のそんな胸中を知るはずもなく、カッツはフードを外すと、両手をポケットに突っ込んで三兄弟と向き合った。
「それじゃあ、お言葉に甘えて……とりあえずカッツはそこに立って、三人の攻撃の回避しつつ、反撃の動きを一瞬だけとってくれ」
「つまり、一瞬だけ攻撃の素振りをみせるってことスか?」
「そういうことだ。間違っても実際に攻撃しないようにな」
「言われなくても大丈夫スよ」
カッツは悪態を垂れながらも、俺の言う事を理解してくれたようだ。
 次はリク達への説明をしなければならない。
 俺が振り返ると、三人は俺の説明を今や遅しと待ち望んでいた。
「まずは連携の練習からはじめる。まず三人一列に並んで、先頭の一人がカッツに斬りかかってくれ。次の順番のものはその状況を見て、前の者が切りかかった瞬間カッツがどう動いたか、その時自分が何かできるかを俺に報告するんだ」
カッツに促されて、俺は訓練の説明を始めた。
 リク達は眉間にしわを寄せ、首をかしげながらも俺の説明を必死になって聞いていた。
 わからないなりにも理解しようと必死になっているのが俺から見ても明白だった。
 リクも、カイも、クウも今の自分の置かれている状況を何とかして変えようと必死なのだろう。
 いつまでも弱いままでいたくない、使えないと思われたくない、そして、がんばったことを誰かに評価して欲しい。
 そういう強い向上心が三人の目を通して伝わってきた。
「まずは実際にやってみるぞ。最初にリク、カイ、クウの順番でやる。その後は順番をシャッフルしてやっていくからな」
「はい!!」
「はい!!」
「はい!!」
俺の呼びかけに、三人はほぼ同時に逞しい声で答えた。
 大丈夫、こんな声が出せるのなら……強くなれる。俺はそう確信した。
「まず一人目!!」
「うっす!!」
俺の号令と同時に、赤い髪のリクが双剣を手にカッツに突っ込んでいく。
 スピードは三人の中で一番速いかもしれない。
「やあああああ!!」
リクはカッツの懐に飛び込むと、双剣で横薙ぎ、袈裟切りと連続攻撃を仕掛ける。
 だがカッツも慣れた様子でその攻撃を後ずさりだけで避ける。
 袈裟切りが終わった瞬間、カッツの左足が一歩下がり、右足がピクッと一瞬動いた。反射的に反撃をしそうになったんだろう。
「よし、そこまで!!」
俺が終了を告げると、リクが『もう終わり?』といった様子で俺のほうを向いた。
「カイ、あの後カッツはどう動いたと思う?」
「多分、双剣の攻撃範囲外から蹴りで反撃をすると思う」
「蹴りといっても色々種類があるぞ?」
「左足が下がったから、多分回し蹴り……かな」
カイが不安げに答えると、カッツが小さく頷いた。
 流石は勇者、カッツの一瞬の動きを見逃さない動体視力と観察眼を本能的に持ち合わせているのだろう。
 正直、カッツの動きの癖を知っていたからある程度動きの予想がついていたものの、そうでなければカッツの足の動きにすら気がつかずにいたことだろう。
 改めて勇者の潜在能力の高さを思い知らされる。
「よくできたな、正解だ」
「ひぃ!?」
俺がそう言って頭を撫ぜようとあうると、カイは一瞬ビクッっと身体を震わせ恐怖に満ちた表情で俺を見上げた。
 まさか、俺が殴るために手を上げたのかと思ったのだろうか。
 無理も無い、恐らくブラッドマンに四六時中体罰という名の虐待を受けているであろうから。
 年上の人間が手を上げれば打たれると反射的に判断してしまうのだろう。
「大丈夫だ、殴ったりしないさ」
俺はカイの目線まで腰を落とすと、驚かせないようにゆっくりと頭に触れて、撫ぜてやった。
「え……?う……?」
こんな風に撫ぜてもらったのは生まれて初めてなのだろう。
 俺に敵意がないことをわかってくれたのだろう。少し戸惑いながらもカイは目を細め、恥ずかしそうに首をすくめた。
 その後ろではクウが少し羨ましそうに俺達のことを見ている。
 心配しなくても、次はお前の番だ。
「次はクウだ。今の予想を参考に、自分はどうしたらいいか答えてみるんだ」
「えっと、えっと、カッツ師匠がリク兄ちゃんを蹴飛ばした瞬間に師匠の軸足に向かってブーメランを投げる!!」
師匠って何だ……と尋ねたくなったが、答えそのものは間違っていなかったので追求するのはやめた。
 戦いの理論などは殆ど知らないといっていいだろう。
 つまりクウは本能で正解に近い動きを嗅ぎ分けた事になる。
「そうそう、その調子だぞ」
俺がご褒美に頭を撫ぜてやると、クウは大げさに喜んで跳ね回った。
「そうなればカッツも攻撃を回避するために体勢を崩さなければならない。そこをリクとカイで攻めるんだ」
「なるほど……」
俺の解説に、リクが興味深げに相槌を打った。
 一応これでも騎士養成学校では学科においてずっと学年トップをとっていたのだ。
 この手の知識と説明なら少しは自信があるつもりだ。
「だから一番手のリクも必要以上に近づかなくていいんだ。一人でやっつけようと思わず、後の二人にためにカッツの注意を逸らすだけでいいんだ」
「はい!!」
「はい!!」
「はい!!」
「次はカイが仕掛ける役、クウがカッツの動きを読む役、リクがどう動くかを考える役でいくぞ」
俺がそう言うと、今度はリクがツインランサーを手にしてカッツの前に立つ。
 そして深々と一礼すると、武器を構えた。
「師匠、お願いします!!」
「し、ししょお!?」
カイの『師匠』の一言に、カッツが一瞬たじろいだ。
 まさか自分が師匠などと呼ばれるなどとは夢にも思っていなかったという様子で、普段は殆ど起伏の無いカッツの表情に動揺の色が容易に見て取れた。
 カイが一歩前に出るたびに、カッツは気圧されたように一歩後ろに下がった。
 三人にとっての訓練なのだが、カッツにとっても人と接するいい訓練になるかもしれない。
 そう思いながら、俺はカイがカッツに仕掛けていくのを見守っていた。
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