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鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その21】

 時折聞こえる金属がぶつかる音と、三人の勇者の掛け声とカイルの説明をする声。
 その音が漏れてくるとき以外は洞窟の中はいたって静かであった。
 イレーヌは持ち歩いている手帳と何かの資料を交互に目を通しながら書き物をしている。
 チーコも洗い物を終え、食器をリュックの中に順番に詰めている。リュックの体積よりも食器の方が大きいはずなのだが、食器は吸い込まれるようにリュックの中に納まっていく。
 最初は皆が不思議に思っていたが、今では誰も気にしなくなっていた。
 本猫いわく、月猫秘伝の収納法を駆使した結果らしい。
 トウマはブラッドマンの方をチラチラ見ながら落ち着かない様子で地図を見ていた。
 原因はブラッドマンがニタニタ笑いながらトウマのことを見ていたからであった。
 隣での洞窟の一件を目にしている以上、彼にそういう性癖があることはトウマはよく知っていたし、自分もその対象のうちに入っているかもしれないと考えるのは自然な事だった。
 その不安がトウマをますます神経質にさせ、ブラッドマンが少し身体を動かすたびに少しずつ場所を移動していた。
 ブラッドマンはそんなトウマの泳いだ目と怯えた態度を見るのが楽しいのか、わざと身体を動かしているようであった。
「ブラッドマンさん、いい加減にしていただけないかしら?」
見かねたイレーヌが口を開いたのは至極当然な流れであった。
「あ、何のことだ?」
「チーコちゃんから貴方の性癖に関しては聞いています。基本的に私は個人の性癖に関してとやかく口出しするつもりはありません。ただ……」
「何だよ、回りくどい言い方せずにハッキリいいやがれ」
「我々の仲間に厭らしい視線を向けるのはやめていただけるかしら。怯えているのがわからないの?」
「いいじゃねぇか。こっちはそこの月猫のせいでお預けを喰らってんだ。目で見て想像するくらい問題ねぇだろ」
想像するという言葉にトウマの顔が凍りつく。
「それともエルフの姉ちゃんが楽しませてくれても俺はだいかんげ……」
そこまで言って時点で、ブラッドマンの言葉が止まった。
 別にブラッドマンが自分の意思で口を慎んだわけではなかった。
 ランプの光に照らし出されたブラッドマンの影の手の部分が地面を離れ、彼の喉元を掴んでいたからである。
 もう少し力を入れれば喉笛が握りつぶされそうなくらいに喉周りの皮がよじれ、顔には脂汗と焦りの表情がにじみ出ていた。
 イレーヌが影を操って首を掴んだのは誰から見ても明らかであった。
「こう言った方がわかって頂けるかしら。お姉さんが怒る前に大人しくなさい、ボウヤ?」
「わ、わーったよ……だ、だからこの手をどかしてくれぇ……」
ブラッドマンが渋々承諾をすると、ブラッドマンの喉笛を握っていた黒い手は溶ける様に地面に吸い込まれ、普段どおりに主人の傍らに寄り添っていた。
 黒い手から解放されたブラッドマンは激しく咳き込みながら、自分の首に何も無いか手で確かめている。
 地面に這い蹲り、情けない姿をさらすブラッドマンをイレーヌは冷たい視線で見下ろしていた。
 傍らでは彼女の隣に避難したトウマが舌を出して『イーッだ!!』と精一杯の強がりをして見せていた。
 再び洞窟の中に不完全な静寂が訪れる……はずだった。
「ふぅ、これでやっと落ち着いてスケジュール管理の作業を始め……」
トウマがそう言って腰を下ろした瞬間だった。
 ドグォ!!という爆発音と共に、洞窟の奥から大量の土煙が洞窟の中に流れ込んできた。
「ニャ!?」
「な、何なの!?」
「うわわわわ!?」
「チィ、何が起きやがった!!」
このアクシデントに、4人はそれぞれに対応を見せた。
 チーコは食器に土煙が入らぬように急いでリュックの口を閉じる。イレーヌとブラッドマンは一瞬で立ち上がり、それぞれに己の武器を構えて煙の主の襲撃に備えた。
 その中でトウマだけは一人腰を抜かして地面に尻餅をついていた。
「さっきの爆発……!!」
「ああ、騎士サマと勇者どもが稽古してた場所だ!!」
さっきまでの禍根など忘れたように、イレーヌとブラッドマンが二人並んでゆっくりと一歩一歩土煙の中に足を踏み入れていく。
 少し遅れてリュックを背負ったチーコがピコピコハンマー片手に二人の後を追う。
 そして最後にリュックにしがみ付くようにトウマがダガー片手に最後尾を行く。
 煙が少しずつ引いていくにつれ、イレーヌ達は何が起こったのかを目にすることになった。
 洞窟と鍾乳洞のドームを隔てていた数mにも及ぶ岩盤は見事に粉砕され、洞窟とドームを繋ぐ人の高さほどのトンネルが出来上がっていた。
「高火力の術法でもここまで粉砕するのは楽ではないわ。まして、あの子達にこんな芸当……」
「そ、それじゃあ、まさかユダって勇者がカッツ達を……!?」
「いえ、それは考えにくいわ。闇のマナが集まった形跡がないもの。それにこんな破壊力のある技が使えるのなら、私に死霊を乗っ取られた時点で使っている筈よ」
「じゃ、じゃあ、魔物が!?」
「……現状では最も考えられうる可能性ね」
イレーヌがそう答えると、トウマが小さなうめき声を上げた。
 岩盤を一撃で砕くほどの攻撃ができる魔物だ、13魔将かそれに匹敵するバケモノであることは間違いないだろう。
 そんな奴とレツとタイガ抜きで戦わなければならないのである。
 トウマの呻きはある意味当然であった。
 煙が完全に引けて、鍾乳洞の中が完全に露になる。
 未知の存在を前にして、全員が一斉に構えた。
 だが、そこにいたのは未知の魔物ではなかった。
「カ、カイル君!?」
イレーヌが驚きのあまり、普段出さないトーンの高い声を上げた。
 彼女の言うとおり、そこに魔物の姿は無かった。
 そこにいたのは洞窟に空いた穴を指差したまま硬直しているカイル、そして鍾乳洞側の穴の入り口で尻餅をついて目を点にしているカッツ。
 そして三人寄り添って弓を構えた姿勢のまま、カイル達と同じく呆然とした様子のリク、カイ、クウの三人であった。
「お、おい!!何があったんだ!!」
「リ、リクたちが偶然同じ場所で固まって、三人同時に弓を撃った瞬間……光の矢が重なって……岩が!!」
冷静さを欠いたカイルの説明は当然のごとく理解に苦しむものであった。

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