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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その23】

 洞窟に戻って包帯とガーゼの交換を行った俺達は再び訓練に戻った。
 驚くべきはリク、カイ、クウの背中の傷が半分治りかけていたことだ。
 イレーヌ女史の治癒の魔法があまり効果がなく、苦肉の策で月猫の秘薬を使ってなんとかその場を凌いだというのにだ。
 『ニャー』と声を漏らしながら口をあんぐり開けているチーコを見ていれば、それが秘薬のなせる業ではないというのは俺にも理解できる。
 もしかして勇者には超人的な自己回復能力があるのかもしれないが、確かめる術がない以上これ以上はなす術がなかった。
 どちらにせよ、これでかなり本格的な訓練ができるのはこちらとしてはありがたい誤算だった。
 俺達は偶然発動した例の同時射撃の攻撃の再現に多くの時間を割いた。
 検証の結果、リク、カイ、クウの三人が一箇所に集まり、ほぼ同時に弓を放ち、三人の矢を接触させる事によって発動する攻撃であることが判明した。
 再現に手こずることを想定していたが、予想外に発動のハードルが低いのはありがたいことだった。
 ただ驚異的な威力な半面、三人の体力の消耗も激しく、連続して使用する際には小休憩を挟まなければならなかった。
 また、三人が固まって放つ攻撃であるため、攻撃が見切られやすいという弱点も内包していた。
 つまり、対ユダ戦で使用する場合には最初の一回を確実に当てなければならない。
 もし外せば、発動が容易に把握できてしまう攻撃である以上、奴も対策を立ててくるだろう。
 通常は三人の連携で応対し、確実な局面で当てていくのが妥当な作戦だろう。
「ハァ、ハァ……」
俺の目の前ではリク達が地面に座り込んで乱れた息を整えていた。
 カイやクウに至っては地面に倒れ込んでしまっていた。
 カッツも三人のように息は乱れてはいなかったが、顔や首にはビッシリと汗をかいていて、疲労の色が濃くなっていた。
「ここら辺が限界か……」
俺はそう言葉を漏らした。
 本当はもう少しだけ訓練を続けたかったが、疲労を残したままユダとの戦闘に入ってしまっては本末転倒だ。
 それに、治りかけとはいえ怪我人の三人のことを考えると無理はさせられなかった。
「よし、訓練はここまでだ。3人とも汗を拭いて向こうで休むんだ」
「だ、大丈夫!!」
「ま、まだやれる!!」
「や、やれるぞ!!」
俺の言葉に、三人はふら付きながらも立ち上がった。
 彼等なりにまだ満足のいかないところがあるのだろう。
 その目は、もっと学びたい、強くなりたいと俺に強く語りかけていた。
 この戦いが終われば、ブラッドマンがチーコに代金を支払ってしまえば自分たちが再びブラッドマンの元に戻されてしまう事をこの兄弟達は悟っているのだろう。
 だから、この限られた時間でできるだけ多くのことを学んでおきたいのだろう。
 そう考えると三人があまりに不憫で、胸の辺りがツンと痛くなった。
 しかし、だからといって三人の無理をさせていい道理にはならない。俺は心を鬼にしてキッっと三人を睨み付けた。
「ダメだ。ここで疲れが残ったら、ユダとの戦いの時にちゃんと動けなくなるだろう?だから残りの時間で疲れを取っておくんだ」
「でも……!!」
食い下がってきたのはカイだった。
 リクやクウも言葉には出さないものの、同じ考えを持っていることは顔を見ていれば明らかだった。
 三人とも、その顔に焦りと口惜しさがにじみ出ていたからだ。
「ダメだ。休んでるうちに、訓練したことが頭に定着する。だから休む事も訓練の一環だ」
俺はそう言ってカイを宥めると、頭を撫ぜてやった。
 最初は頭に触れるだけで怯えて首をすくめていたが、今は帰って自分から擦り寄ってくる程に慣れていた。
「カイルさんの言うとおりに休んどけ。無理に頭に詰め込んでも、それを実際にやれなかったら意味がないだろ」
「ししょー……」
カッツの強い言葉に、リクとカイも何とか納得してくれたようだった。
 カッツも『師匠』という言葉にそれほどアレルギー反応を見せなくなっていた。慣れというものは素晴らしいものだ。
「ねえ、カイルさん?」
「俺達」
「強くなった?」
突然三人がそんなことを尋ねてきた。
 稽古の結果がどれだけ実を結んでいるのか、彼らなりに気になっているのだろう。
「ああ、初めて会ったときに比べたら見違えるほどにな」
それを聞いた三人に一斉に灯が灯った。
 三人はニコニコしながら互いに顔を見合うと、一礼して洞窟の方に戻っていった。
「いろいろと問題はありますが、何とか様になったスね」
服の袖で汗を拭いながら、カッツが俺の隣にやってきた。
 カッツには今回いろいろと世話になった。カッツが俺の代わりに相手をしてくれなかったら、俺は指導に集中することができず、結果三人もここまで成長する事もなかっただろう。
 三人が同時射撃を偶然発見できたのも、カッツが実戦形式の演習で三人を適度に追い詰めてくれたからに他ならない。
 俺が相手では三人も余裕を持って戦っていたに違いない。そして、その状況であの技を繰り出せただろうか。
 答えは否だ。
 今回の立役者は間違いなくカッツだと俺は認識している。
「本当にカッツがいてくれて助かった。ありがとう」
「べ、別に例を言われるようなことはしてないスよ」
カッツはどもり気味にそう言うと、ぷいとそっぽを向いてしまった。
 最初はカッツはただの生意気で口の悪い勇者だと思っていた。だが、現実は違っていた。
 カッツは他人に自分の思いを告げるのがものすごく不器用で、人から優しくされたり、頼りにされる事にひどく臆病なだけなのだとわかった。
 勇者という特殊な境遇では己の感情を表現する事や、自分の都合を押し通すことは難しいだろう。カッツがこうなってしまったのもある意味仕方が無い事なのかもしれない。
 それでも俺にはカッツが不憫に思えて仕方がなかった。
 レツもタイガに対して同じような感情を抱いているのだろうか?
 何か俺がカッツのためにしてやれることはないのか……。
「カッツ……その、なんだ、訓練に付き合ってくれた礼に……何か欲しいもの無いか?」
「欲しいものって……どうせレツさんに頼むだけでしょう?」
カッツが面倒くさそうに尋ねる。
「いや、俺が自分の財布から出す」
「……頭に岩の破片でも当たったんスか?」
「俺は正常だ。今回頑張ってくれたカッツに俺からお礼がしたいんだ」
「はぁ……」
カッツはそう答えてはくれたものの、どう返事したらいいのか困った様子で眉をしかめてしまった。
 しまった、あまりにも唐突過ぎたか。
 勢いで言ってしまったが、今更になって言葉の脈絡の無さに気がついて情けなくなった。
 今更ながらに己の対人関係の構築の不器用さに呆れてくる。
「すまん、やっぱりいきなり……」
「そこまでいうのなら、靴が欲しいス」
「え?」
「履いてる靴が限界に近いんで、新しいのが欲しいんスけど。ダメっすか?」
「あ、ああ、もちろんだ!!サルディニアに着いたら、一緒に買いにいくか!!」
俺は上ずった声で答えた。
 よく見ればカッツの靴は爪先のところに小さな穴が空き、靴の底がめくれかかっていた。
 スピードで敵を振り回して、足技を好む戦い方をしていれば靴だってすぐにボロボロになるだろう。
 個人的には消耗品ではなくて、ちゃんとした何かを買い与えたかったが、ここはカッツがの意思を尊重した方がいいのだろう。
「それでカイルさんの気が済むなら、俺はそれで構いませんよ」
カッツは少し恥ずかしげにそう答えると、鼻の下を指で擦った。
 何だちゃんと年齢相応の子供の表情もできるじゃないか。仏頂面の時には気づかなかった事だった。
 相当恥ずかしかったのか、すぐに顔を背けると駆け足で洞窟の方に走り去ってしまった。
 少しは心を開いてくれたのかな……そんな希望的観測を持ちながら俺はカッツの後を追った。

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