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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その24】

 俺が戻ると、食事の食器類は全て片付けられ、代わりに人数分の寝袋が敷き詰められていた。
 恐らくはチーコがリュックから引っ張り出したものだろう。
 俺達の分が全て詰まっているというだけでなく、リク達の分の寝袋があるってだけでもかなりの驚きだ。
 一体チーコはあの小さなリュックに何人分の寝袋を詰め込んでいるのか、考えただけでも恐ろしい。
「あ、カイルの旦那。寝袋準備しといたぜ」
下着一枚で寝袋を広げているトウマが待ちかねた様子でそう声をかけてくれた。
 チーコはツルツルしたシートの上にフカフカな羽毛布団を広げ、ナイトキャップを被ってスヤスヤと眠りに入っていた。
 自分用の羽毛布団とかナイトキャップとか……色々と突っ込みを入れたい気持ちを俺はグッと押さえた。
 ブラッドマンも出入り口に一番近い寝袋に入り、俺達に背を向けて眠っているようだった。
 夜が明けるまでの短い時間を少しでも休憩に使いたいのだろう。
「あのオッサンがいるせいで、迂闊に服も脱げねー」
 トウマはブツブツ文句を言いながら自分の寝袋を広げると、スルスルと寝袋の中に潜り込んだ。
 イレーヌ女史も寝袋に下半身を埋めて、手帳に何かを書き込んでいた。
 俺の寝る場所は……そう思って探していると、空の寝袋が俺用とでもいいたげに広げてあった。
 その左側にはリク、カイ、クウがぴったりと寄り添って寝袋に包まっていたからだ。
「カイルさんの寝袋」
「ここだぜー」
「早く、早くー」
そう言って、リク達が早く来いと手招きする。
 少し寝苦しそうだが、不思議と嫌な気はしなかった。
 俺は剣と鎧とマントを外すと、寝袋の枕元に置いた。枕元が少し窮屈になるが職業柄逆にこうしないと不安で眠れないのである。
 自分でも因果な職業だとつくづく思う。
 インナーだけになった俺は、寝袋の中に足を通した。
 肌触りが少し不思議な感じだ。カガクセンイと呼ばれる雷の国などの一部の国でしか生産されていない特殊な繊維で織られたものらしい。
 恐らくチーコが雷の国にいるうちに購入しておいたのだろう。
 そういえば、カッツはどこにいるのだろうか?
「カッツはどこにいるんだ?」
「アイツならあそこだぜ」
そう言ってトウマが指差した先にはカッツの姿があった。
 洞窟の入り口にある大きな岩に腰掛け、霧と雨が混じった空をじっと眺める姿が。
 皆が仮眠を取っている間、見張りの役を買って出てくれたのだろうか。
「カッツ、見張りでもするつもりか?」
「あ、いえ、外を見てただけス。イレーヌさんが洞窟の入り口がわからないように魔法をかけたんで、見張りはいらないそうです」
カッツはそう答えると、斧を担いで俺の右隣の寝袋に腰掛けた。
 見張りが要らないって……いくら魔法で入り口を見えなくしたとはいえ無用心過ぎないだろうか。
「こっちからはわからないけど、洞窟の入り口に魔法でステルス迷彩の結界を施したわ。チーコちゃんと協力して複数属性の魔法で複合的に設置したから、ちょっとやそっとでは見抜けないはずよ」
「イレーヌさんやチーコを疑っているわけじゃないが、ユダに見破られる恐れはないのか?」
「死霊程度に見抜けるような雑な迷彩は施してないわ。それに万が一見破られて結界に足を踏み入れてもブービートラップが発動するようにしてあるし」
「はぁ……さすがですね」
「だから万が一見破られて踏み込まれても向こうも痛手を負うし、私たちもその音で気づくはずよ。エルフの魔法の歴史は伊達じゃないわ」
御見それいたしました、としか言いようがなかった。
 流石はレツが一目置く存在といったところか。不測の事態に備えて二重三重の備えを当たり前のように用意してある。
「本当は俺が一人で見張りをやるつもりだったんスけど」
「一人でって……誰かと交代して寝なくてよかったのか?」
「俺不眠症なんで。特にこういう日はダメなんスよ」
カッツはそう言うと、洞窟の外を見た。
 そういえば、ラフロイズからカッツの不眠症に連れて軽く聞かされていたのを思い出した。
 にしては疲労を感じさせない戦いをするので、てっきりラフロイズが場を和ませるために言った冗談か何かと思っていたのだ。
 それが実感に変わったのは雷の国の病院で見たカッツの姿だった。
 その日、病院のソファーで寝ていた俺が目を覚ますと誰かが病室の片隅に立っているのが見えた。
 既に夜も更け、客が来るはずも無く、不審者が入ってきたと勘違いした俺は剣を手にかけて立ち上がった。
 だが、そこにいたのは病院の窓から外の風景をボンヤリと見つめているカッツだった。
 怪我人がこんな時間になんで起きている?そう尋ねる前に、カッツは一瞬だけ俺に目をやるとブツブツと独り言を言いながら斧を引きずって病室から出て行った。
 『ついてくるな』一瞬だけ合ったカッツの目にそう脅されたような気がして、あの時の俺は彼の後を追う事ができなかった。
 そんなことが何日か続いたのである。
「それでも横になるだけで大分マシになる」
「じゃあ、横になりながら外の様子を見張ってるス」
そう言うと、カッツはパーカーを脱いで寝袋に足を通した。
 下に着ていたタンクトップの隙間から全身の細かい傷が目に飛び込んでくる。
 それらのキズがカッツの今までの激しい戦いを俺に教えてくれる。これでは不眠症になっても致し方ないのかもしれないが。
「カイルさん、ししょー」
「俺達寝るね」
「おやすみー」
 そんなことを考えていると俺の左手にリク達がしがみ付いてくる。
 俺が寝袋に潜り込むと、クウが俺の脇の下に潜り込み、リクとカイが俺の腕を枕代わりにしてくっついて来た。
 しばらくすると、三人から穏やかな寝息が聞こえてきた。相当疲れていたらしい。
「カッツもこっちにくるか?」
空いた右手で手招きしながら、俺は調子に乗って冗談交じりにそんなことを言ってしまった。
 洞窟の一件でカッツが心を開いてくれたと思いあがっていたと思う。
 カッツは怪訝そうな表情で俺の顔を見下ろした。その表情だけで俺の自惚れ一瞬で吹き飛んでしまった。
 きっと次の瞬間、辛らつな言葉を容赦なく俺に浴びせかけてくるのだろう。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
そう言ってカッツは俺に寝袋を近づけて横になると、俺の右腕に頭を乗せた。恥ずかしそうに顔を俯かせて。
 青天の霹靂だった。あのカッツが皮肉も言わず、そんなことをするなんて……。
「カ、カッツ!?」
「頭、重いスか?」
「い、いや、大丈夫だ!!」
「じゃあ、このままの体勢でいいスか?なんか、少し眠れそうな気がするんで」
カッツはそう言って、ゆっくりと目を閉じた。
 俺は少し驚きながらも、自分もカッツ達を起こさぬ様に注意してゆっくりと上半身を寝袋の中に埋めた。
 カッツも疲れているんだろうか、いろんな意味で。
「あの、カイルさん」
「ん?」
「俺はカイルさんの事……優しすぎると思います」
「は?」
ストレートを通り過ぎて、文脈を無視した物言いに、俺はカッツが何を言わんとしているのか全く理解できないでいた。
「他人の勇者のために他所の従者に犯されそうになったり、勇者たちに名前をつけたり、勇者の稽古を引き受けたり……普通じゃそんなことしないス」
「確かに……変かもしれないな。でも、俺は勇者と戦いの道具だって割り切るのが正しいとは思えないんだ」
「勇者は魔物と戦う存在ス。それ以外にはありえないス」
「戦うだけの存在が靴なんか欲しがるか?」
「あ、あれは……消耗品の交換を……」
ゴニョゴニョとどもるカッツの頭を俺は撫でてやった。
 カッツは恥ずかしそうに首をすくめると、俺の腕の中に顔を埋めてしまった。
「とにかく、俺達は死んでも代わりがいます。でもカイルさんには代わりはいないス。それを忘れないで下さい」
「確かに代わりになる勇者はいても、俺と同じでカッツの代わりはいないんじゃないか?」
俺がイジワルを言うと、カッツは眉をしかめて不機嫌そうに俺を睨んだ。
「屁理屈を言わないで下さい。とにかく、俺達のせいで判断を誤るようなことしないようにして欲しいんス」
「つまり、必要であれば勇者を犠牲にしてでも任務を全うせよと?」
「そういうことス」
「どうしてそんなことをいきなり……」
「カイルさんの判断の甘さが、いつかカイルさんの身を滅ぼすと思ったんで」
カッツらしい、歯に衣着せぬ言い方だった。
 確かに俺の考え方や判断は実戦を経験している者から見れば、経験不足の未熟なものなのだろう。
 これも彼なりの俺に対する忠告のつもりなのだろうか。
「勇者は魔物と戦う剣です。それを忘れないで下さい」
カッツはそれだけ言うと、再び腕の中に顔を埋めてしまった。
 しばらくして、カッツからも寝息が聞こえてきた。
 お前は勇者であると同時に、カッツという一人の人間なんだ。そう心の中で呟きながら、俺はカッツの肩に寝袋をかけてやった。
 みんなの寝息を聞きながら、俺も瞼を閉じ、ゆっくりと眠りに落ちていった。

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