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鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その25】

「カイルさん、俺を殺してください。手遅れになる前に」

カッツ、お前何を言っているんだ?

「早く殺してください。でないと、このままじゃ……」

そんなことできるわけないだろう!?

「また俺のせいで、皆が死んじまうんスよ!!」 


俺の夢はそこで終わった。
 今の今まで眠っていたというのに、俺の心臓は胸の中で跳ね回り、夕立でも浴びたかのように俺の身体はビッショリと濡れていた。
 それだけ夢のインパクトが強かったのだ。
 俺は元々あまり見た夢を覚えている事はないのだが、今回の夢だけははっきりと細部まで覚えていた。
 カッツの言葉も、彼の苦悶の表情も、彼が流していた涙も……。その全てを。
 あまりに内容が生々しすぎて、ただの悪夢で片付けられるようなものではなかった。
 カッツは俺の腕枕で、珍しく他人に寝顔を見せていた。
 寝る前にカッツと交わした会話を思い出す。
 いつか、任務のために勇者を犠牲にせねばならない時が来るのか……?
 そう考えると夢が現実になりそうで、俺は恐ろしくなった。
 カッツが俺のシャツを握って、腕に顔を埋めてくる。珍しく熟睡しているようだ。
 見捨てるのか……俺が……?
 漠然とした恐怖が俺の頭を駆け巡り、もう一度あの夢を見るのが怖くて俺は再び寝入るのにしばらくかかった。
 幸いにもあの悪夢が俺を苛む事は無かった。


「カイルの旦那ー、朝だぞー」
トウマの声が聞こえてきて、誰かが俺の鼻を摘む。
 息苦しくなって目を開けると、案の定トウマが俺の顔を覗き込んで鼻をつまんでいた。
 全く、もう少しマトモな起こし方はできないのか。
 俺の両側では勇者たちが今だ夢の中にいた。彼らの頭の重さで腕がうっ血して、感覚が殆どなくなっていた。
 見回すと、俺達以外は既に起きて出発の準備をしていた。
 チーコは空いた寝袋をクルクルと丸め、イレーヌ女史は簡単な朝食の準備をしていた。
 どうやら俺達に気遣ってギリギリまで寝かせておいてくれたらしい。
「ほら、お前たち起きろ」
俺は両腕を動かして、勇者達の頭を揺った。
「んー?」
「もう?」
「朝ー?」
リク、カイ、クウが眠たそうに目を擦りながら、ゆっくりと身体を起こす。
 少し遅れてカッツも寝ぼけた様子で頭を掻きながら身体を起こし、小さなアクビをした。
「俺……寝てたのか……?」
カッツは少しかすれた声で呟くと、ゆっくりと周囲を見回した。
 カッツ本人も眠ってしまっていたことに信じられないでいる様子だった。
 さっきからトロンとした目で周囲を何度も見回している。どうやら寝起きはあまり良くないらしい。
「これ、朝飯。荷物の片付けが終わったら、すぐに出発だってさ」
トウマはそう言って、子供の拳程度の大きさのパンに無理やり野草や昨日の残りの香草焼きを詰め込んだものを一人に二個分手渡してくれた。
 残り物を適当に組み合わせただけとはいえ、朝食があるのはかなり助かる。
 俺はそれを二個ずつリク達に渡してやった。
「これが朝飯かぁ!!」
「すげー!!」
「はじめてだー!!」
リク達は大喜びしながら貰ったパンを両手に持って大事そうに掲げていた。
 さっきの口ぶりからして、まともに朝食なんか与えられた事がなかったんだろう。
 たった肉と野菜のサンド一個にここまで大喜びできる勇者たちに俺は不憫さを感じずにはいられなかった。
 カッツはやっと脳が機能してきたのだろう、それでも完全に覚醒できずにいるのか、寝ぼけ眼で渡されたパンの片方にかじりついていた。
 続いて冷えた茶の注がれたマグカップがこっちに回ってくる。恐らく昨日煎れたものを残してあったのだろう。
 こういう時、トウマやチーコといった存在がいて良かったとつくづく思い知らされる。
 リク達も一しきりはしゃいでからパンにかじりつき始める。
 俺もパンを口にした。保管用の粗末なパンと昨日の残り物のサンドとはいえ、十分に食用に値するものであった。
 野宿する予定など全く立てていなかったのに、ここまでの食事を用意したチーコやトウマには驚きを通り越して尊敬の念すら覚えていた。
 騎士団の学校で、『遠征の成否を決めるのは、騎士の技量ではなく、後方支援班の働きで決まる』と教えられたことがあるが、まさしくその通りだと改めて納得した。
 二個目のパンを食い終えた時、何かの影が俺の身体を覆った。
「あ……」
影の主に気づいたクゥの表情が凍りつき、持っていたパンを慌てて落としそうになっていた。
 その様子から、後ろに立ったのが誰なのか大体察しはついていた。
「ブラッドマンさん、何か用ですか?」
俺はなるべく嫌悪感を表に出さないようにして尋ねた。
 ブラッドマンとは同じ目的で致し方なく一緒にいるだけであって、できればあまり関わりをもちたくなかった。
 昨日の洞窟での一件のように、下手に口を利くとやり込められそうで怖かったのも理由の一つだった。
 チーコやイレーヌ女史がいるここではよほど大丈夫だとはわかっているが……。
 それでも生理的に奴を受け付ける事ができなかった。
「まあ、そんなに警戒すんなよ。ちょっと騎士殿に頼みがあってなぁ」
「如何様でしょうか?」
俺がそう答えると、ブラッドマンは自分の口を俺の耳元に近づけ、手で覆った。
 どうやら秘密の頼みごとらしい。
「ちょっくら外に小便に行きてぇんだけどよ、その間見張っててくれねぇか?」
「はぁ?」
「外にはあのユダがいるんだぞ?一人で小便なんかできるかよ」
「誰か他の奴に頼めばいいだろう」
「エルフのねーちゃんや月猫にこんなこと頼めるかよ。ナビゲーターのガキには警戒されてるし、俺の勇者様は月猫に差し押さえくらってるしよぉ。頼めるのが騎士様しかいねーんだよ」
自業自得だろうと言ってやりたくなったが、生理現象では無下に拒絶するわけにもいかなかった。
 俺はわざと大きく溜息をつき、念のために剣だけを腰にさげると重い腰を上げた。
 ブラッドマンは愛想笑いのつもりなのか、ニタニタと厭らしい笑みを顔に浮かべていた。
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