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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その26】

 ブラッドマンが用を足す場所に選んだのは、洞窟から少し離れた草むらだった。
 霧は幾分か薄まり、少し離れた位置からでも何とか洞窟が見える程度になっていた。
 この程度の霧ならユダも移動を開始するかもしれない。
 霧の中、木の下で雨露を凌いだとして、奴の身体は霧で冷え切っているはずだ。暖を取るために町に紛れ込む可能性だって否定できない。
 これが済んだら、すぐさま移動を開始せねばならないだろう。
「おい、何ジロジロみてやがる」
ブラッドマンがベルトに手をかけたまま、俺の方を睨みつけた。
「まさか、俺にヤられかけて目覚めちまったのか?」
「そんなわけあるか!!」
「だったら、俺の小便が終わるまで背ぇ向けてろ」
「言われなくともそうする!!」
ムキになって答えると、俺はブラッドマンに背を向けてあたりを見回した。
 幾分改善はしたものの、まだまだ周囲は霧で見通しが悪い。
 注意して周囲を監視していなければ、ユダや魔物に奇襲を受ける可能性もありうる状況だった。
「じゃあ、騎士様、しっかり頼みまさぁ」
ブラッドマンの声と共に、カチャカチャとベルトが外れる音が聞こえる。
 その金属音が昨日の洞窟の事を容赦なく思い出させるのか、ひどく耳障りな音に聞こえる。
 とにかく早く終わって欲しい、そう思いながら俺はあたりを見回していた。
「ブラッドマン、まだか?」
「もうちっと待ってくれや」
この男、今おかれている状況がわかっているのか……?
 少しイライラしながら俺は奴が用を足すのを待っていた。
「いやぁ、待たせちまって悪いなぁ」
「それじゃあ、このま……」
俺がそこまで言いかけた時、何かが俺の口を塞いだ。
 それと同時に何か尖った物が俺の喉元をチクリと刺した。
 恐らくナイフのような尖った刃物だ。ひんやりとした感触は感じられないところから、樹脂か牙のような物を研いで作ったものだろう。
 こんな事をやるのは一人しか考えられなかった。ブラッドマン!!
 一体何を考えているんだ!?
「いやぁ、やっぱアンタ甘ちゃんだわ」
耳元でブラッドマンが俺に囁く。
 奴の息遣いは獣のように荒々しく、首筋に奴の息がかかる度に嫌な寒気が走った。
「喉で息したくなかったら、大人しくしてな」
俺がゆっくりと二回頷くと、ブラッドマンは俺の口から手を放した。
 恐らく少しでも声を上げたら、喉元に付き立てられたモノで俺の喉を切り裂くつもりなのだろう。
 俺の口を離れたブラッドマンの手はゆっくりと俺の腰にさげられた剣へと向かった。
 ブラッドマンは剣の柄を掴むと、スゥという擦れた音と共に剣を引き抜き、林の中に放り投げた。
 少しでも俺の反撃の手段を奪って置くつもりなのだろう。
 愚かだが狡賢い男だという事を忘れていた。最初からこうするために俺に見張りを頼んだのだろう。
「ブラッドマン……何が望みだ!!」
「さすが騎士様……察しがいいねぇ」
ブラッドマンは俺を馬鹿にするように答えると、ヒュウと口笛を鳴らした。
「アンタの勇者、強いよなぁ。俺んとこのクソどもとは大違いだ」
「それは……アンタの指揮が下手だからじゃ……ないか!!」
俺の言葉に気を悪くしたのか、小さな舌打ちと共に首筋のナイフのような物が少しだけ深く喉にえぐり込まれる。
 口の利き方には気をつけろということなのだろう。
「このナイフはな、魔物の爪を加工して作られたもんでな。コイツで斬られると、魔物に引っかかれたような傷ができるんだよ」
「つまり……これで喉を切り裂いても……魔物の襲撃だと言い張れるのか!!」
「頭がいいねぇ、騎士さんは。そして魔物によって従者が命を落とせば……」
「他の従者が臨時で勇者を管理する。……カッツが狙いか!!」
「やっぱ学校を出ている騎士様は違うぜ。騎士様のおかげでうちのクソもマシにはなったが、アレは3人いなきゃ意味のない力だ。一人欠けたらまた元のクソに逆戻りなんだよ」
「だから、単体でも戦えるカッツを手に入れる魂胆なのか!!」
「それだけじゃない。アイツは……美味そうだ。ああゆう生意気なガキほど、壊した後には従順になるもんでな」
どうやら俺をカッツの従者だと勘違いしているらしい。
 だが、そんなことはどうでも良かった。レツがいない現状では、俺が死ねばブラッドマンが臨時でカッツの従者になる決まりになっている。
 その点では奴の見立ては間違ってはいない。
 恐らく、最初に出会ったときからカッツに目をつけていたに違いない。
 だが……それなら何故さっさと俺を殺してしまわないのだろうか?
「だから、俺を殺してカッツを奪うのか!!」
「まあ、そう焦りなさんな。それは最後の手段だ。俺だって手荒な事はしたくないんでな。平和的に『交換する』のさ」
ブラッドマンはそう言って俺の手に何かを握らせると、中身を確かめろと言わんばかりに俺の拳を指でつついた。
 奴の指示に従って俺は恐る恐る拳を開く。すると、そこにはクシャクシャに丸まった一枚の洋質紙があった。
 ブラッドマンを刺激しないように俺はゆっくりと紙を伸ばす。そこには辛うじて読める字でこう書かれていた。
『私カイル・クレイトーは従者ブラッドマン・クレズリーと勇者を交換します』、と。
 俺が死んだ場合、ブラッドマンが俺を殺したと疑われるのは避けられない。
 だから、俺が自発的に勇者をトレードしたことにしたいのだろう。
 従者が不在の場合、武器の管理人が勇者に関する全権を一時的に受け持つ事になっている。
 ブラッドマンがその規定を知っているかは定かではないが、結果的に奴の思惑通りになる事には違いは無い。
「お前、自分の勇者を捨てる気なのか!?」
「俺は生きてお勤めを全うしたいんでな。そのために強い勇者に鞍替えして何が悪い?」
「リク達はお前や皆の役に立ちたくて必死になって稽古してたんだぞ!!それなのに……」
「稽古しようとクズはクズなんだよ。なぁ、折角穏便に済ませようとしてるんだからよ、協力してくれよ」
「アンタ、勇者をなんだと思ってるんだ!!勇者を使い捨ての剣か何かと勘違いしてるんじゃないのか!?」
「るせぇよ。何なら、手っ取り早く殺してやろうか?そうすりゃ、アンタの望みどおり4人仲良く俺のモンだ」
書類にサインする、俺が死んで所有権が移動する。どちらにせよカッツがこの鬼畜の所有物になることに変わりはなかった。
 ブラッドマンのことだ、カッツの身体に針を突き刺したまま弄ぶに違いない。少し考えただけでも背筋が寒くなる。
 それだけは、それだけは絶対に避けなければならない。
 だが、背後を取られ、剣を奪われた状況ではどうしようもないのも事実だった。
 できる事といえば、喉を引き裂かれるのを覚悟の上で大声を上げる事ぐらいだ。
 そうすれば俺が殺された現場を誰かが目にする。勇者を奪うために従者を殺せば、ブラッドマンに所有権が移動する事は無い。
 自爆に等しい行為だが、それくらいしか考え付かなかった。
「さあ、決断の時間だ。サインをして俺に譲るか、死んで俺に譲るか」
「……クソッ!!」
「騎士様のところにはエルフの学者さんやら、月猫がいるんだから勇者がクソでも問題ねーだろ?それに、騎士様もあの三人に御奉仕してもらったらどうだ?俺が仕込んだから、女より上手いですぜ?ヒャヒャヒャ!!」
俺が何もできないのを確信しているのだろう、奴は憎たらしく笑った。
 そして俺に決断を促すように、奴は俺の喉に更にナイフをえぐりこんできた。
 返答が無ければ、このまま喉を掻っ切るという意思表示なのだろう。
 こうなったら刺し違えてでも奴を……俺は自分の命と引き換えにカッツたちを奴から守るために、腹の中に大きく息を溜め込んだ。
 後は……洞窟の中にいる連中に聞こえるように大声を上げるだけだ。
 うまくいけば、武器の管理人殺しの罪で奴は従者を降ろされるかもしれない。そうすれば結果的にリク達も救えることになる。
 俺の命一つで勇者4人を守れるのなら安物だろう。
 優しすぎる……か、寝る直前にカッツが言った言葉を思い出した。このクソ野郎からお前たちを守れるのなら、優しすぎるのも悪くない。
 すまん、カッツ。約束してた靴、買ってやれそうに無い。俺は目を閉じてゆっくりと口を開けた。
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