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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その27】

 だが、そのときだった。
「がっ!?」
ブラッドマンが突然潰されたような呻きを上げる。
 次の瞬間、俺の喉にあてがっていた三日月状のナイフがカランと音を立てて地面に落ちた。
 一体何が……俺が振り向いた瞬間、ブラッドマンは前のめりになって俺のほうに倒れてきた。
 慌ててそれを避けると、ブラッドマンはそのまま倒れ、地面に赤い池を作った。その背中には一本の剣が突き刺さっていた。
 見間違えるはずも無い……さっきブラッドマンが草むらに投げ捨てたはずの俺の剣だった。
 剣は肩甲骨の下の辺りから背骨を切断するように、ブラッドマンの身体を貫いていた。あの入り方では心臓や肺に達していてもおかしくはない。
 間違いなく、即死に至る一撃だった。
 一瞬何が起きたかわからなかった。
 誰かが草むらに投げ捨てた剣を拾ってブラッドマンの背中を刺した。
 その刺した人物はブラッドマンの背後に立ち尽くしたまま、逃げようとする素振りすら見せようとしなかった。
「な!?」
俺は思わず驚きの声を上げてしまった。
 その人物に俺は見覚えがあった。ブラッドマン達と初めて出会ったとき、彼と共にいたスキンヘッドの男だ。
 だが、奴はユダによって殺されたはず。
 それを裏付けるように、目や鼻には血の流れた跡が残り、奴の目は白く濁っていた。
 息をしている様子も無い。死体を誰かが操っているのだろうか。
 恐らくはリクに刺さった針を抜いた時のように、ユダが何らかの手段を使って操っているのだろう。
 何にせよ、奴が俺を救いに来たのではないのだけは確かだ。
 スキンヘッドの男が身を屈めてこっちに突っ込んでくる。
「ちぃ!!」
俺は反射的にブラッドマンの背中に刺さった剣を引き抜くと、速攻でスキンヘッドの男の身体をなぎ払った。
 ザシュという音と共に腹が切り裂かれるが、スキンヘッドの男の体から出血はなかった。
 死んだ人間からは出血は無い……学校でそう習ったのを思い出した。
 こいつ……痛覚ってものが存在しないのか!?
「くそったれ!!」
俺は駄目押しに剣を逆方向に切り上げる。
 その一撃は左腕と首の頚動脈の辺りを切り裂いた。だが、奴からは血の一滴も流れなかった。
 それどころか奴は動かなくなった腕をダラリとさせながら、見かけによらない俊敏な動きで草むらの中に飛び込んでいった。
「カイルさん、何か大きな声が聞こえたんスけど……」
後ろからカッツの声が聞こえる。
 振り返るとカッツが斧を担ぎながらこっちに駆けてくるのが見えた。
 俺とブラッドマンが出ていくを見て怪しんで来てくれたのだろう。
 だが地面に倒れたブラッドマンと血まみれの剣を手にした俺を見た瞬間、カッツは目を点にしたまま足を止めてしまった。
 カッツは頭の回転が速い奴だから、今のこの状況から何かを察する事など容易かったに違いない。
「カイルさん、これは……!?」
「違うんだ、カッツ、聞いてくれ。これは……」
「これ、カイルさんがやったんスか?」
口調こそ普段と同じだったが、その端々が震えていることに気づくは簡単だった。
 普段は感情の起伏があまりないカッツが、初めて見せた動揺だった。
 間違いない、カッツは俺がブラッドマンを背後から突き刺して殺したのだと誤認をしているのだ。
「……す、すいません。な、何かの間違いスよね?」
「カッツ聞いてくれ、ブラッドマンを殺したのは俺じゃない。ユダがブラッドマンの仲間の死体を使ってブラッドマンを襲ったんだ」
「……じゃあ、な、なんでカイルさんの剣が血まみれなんスか?」
カッツは訳がわからないといった様子で俺の血まみれの剣に目をやった。
 悔しいが、カッツの指摘は正しかった。誰もブラッドマンが俺の剣を草むらに捨てたなんて考えもしないだろう。
 そしてそれをスキンヘッドの男が使ったなんて……。
 俺の主張を理解しろという方が無理があるのだ。
「や、やっぱりカイルさんがやったんスか……?」
「そうじゃない。ブラッドマンががカッツを譲れと俺に脅迫をかけてきた。その時に奴は俺から剣を奪って草むらに捨てたんだ。それを……」
「……嘘ならもう少しマシな嘘をついてくださいよ」
「カッツ、嘘じゃないんだ」
「だ、だって…」
カッツは半ばパニックになっているようだった。
 目に涙を溜め、俺の顔とブラッドマンの遺体を交互に見てはオロオロするばかりだ。
「馬鹿野郎!!何戸惑ってやがる!!こいつは人殺しだ、早く捕まえろ!!」
突然、俺の足元から荒々しい男の声が聞こえた。
 下を向くと、さっきまで倒れていたブラッドマンが上半身だけを起こしてカッツの方を向いていた。
 血の気はなく、薄っすらと青白い肌をしていたが弱々しくも確かに彼は呼吸をしていた。
 確かにブラッドマンは背中を貫かれて絶命したはずだった。仮に生きていたとしても、あの刺され方では背骨を貫かれているはずだ。
 声を上げることもままならないはずだ。
「コイツ、俺がからかったらキレて剣を振り回しやがった。それに刺されたんだよ、俺は!!」
「違う!!カッツ、奴の言葉に惑わされるな!!奴は自分の勇者を俺に譲るから、カッツを自分に譲れと脅しをかけてきたんだ!!」
「んなわけねぇだろうが!!せっかくうちのチビどもがモノになりそうだってのに、捨てる奴がいるか!!」
「貴様!?」
「てめぇも頭があるのなら自分で考えろ!!血まみれの剣を握った男と背中から刺された男、少し考えりゃわかるだろ!?」
ブラッドマンの言葉に、カッツは背中の斧に手をかけながら一歩後ろに下がった。
 その目には戸惑いと同時に、俺に対する警戒が色濃く映っていた。
 無理もない、この状況下では奴の戯言の方が俺の言葉よりも説得力があるのは俺にだってわかる。
「カイルさん、ブラッドマンさんから離れてください」
「カッツ!!」
「剣を捨てて、早く離れろ!!」
カッツは本気だった。下手に刺激すれば俺を襲いかねなかった。
 この異様な状況下でカッツがパニックに陥っているのは明白だった。そんな彼に正常な判断を求める方が無理があるのだ。
 俺は剣を捨てて、ゆっくりと後ろに下がった。
 そんな俺を見てブラッドマンはニヤリと笑った。
 完全に奴の浅知恵の中に俺はいた。だが、俺だってただ黙って奴に弄ばれる気はなかった。
 切り札は二つあった。一つは俺の足元にある鉤状のナイフ、そして俺の手の中にある誓約書。
 ここは大人しく引き下がって、イレーヌ女史かトウマにこの二つを見せればいい。
 少なくとも俺の知っている二人なら、そこからブラッドマンのやろうとしていることを見抜いてくれるはずだ。
 約一匹、俺が犯人であるか否か関係なく隠蔽を試みそうな猫がいるが……。
 『教団に事情説明するために足止め食らう位ニャら、名誉の戦死ってことにしてトドメ刺して埋めるニャ』とか言い出す奴の姿が容易に目に浮かぶ。
「とにかくイレーヌさん達を呼んでくれ。そうすれば全てがわかる!!」
「言われなくてもそうするスよ」
その言葉は、初めて出会ったときのように冷たく、刺々しかった。
「その前に……俺を助けて行きやがれ!!」
「あ、すいません」
ブラッドマンに呼び止められ、カッツは俺の様子を伺いながらゆっくりとブラッドマンに近づいた。
 すぐに無実が証明されるとはいえ、カッツの今の態度は正直堪えていた。
 初めて出会ったとき、カッツからあんな目で見られていたというのに、ただ怒っていただけの自分の鈍感さに改めて嫌気が差す。
 カッツは目で俺を一歩退かせると、地面に這いつくばったブラッドマンを抱きかかえた。
「大丈夫スか?」
「ああ、すまねぇな。お前は本当にいい勇者だな」
「そうスか」
「本当、いい勇者だ。残念だ、俺が生きてたら、絶対に抱いてやるんだがな」
「え?」
「本当に残念だぜ」
カッツがブラッドマンの顔を見るのと同時に、ブラッドマンはカッツの肩を拳で強く叩いた。
 一瞬何をしたのかわからなかったが、カッツは一瞬ビクンと痙攣したかと思うと、そのまま石像になったかのように動かなくなってしまった。
 この現象、まさか……。
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