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鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その28】

「勇者、てめぇに命ずる。次にこの針に触れた奴がテメェのご主人様だ」
ブラッドマンはそうカッツの耳元で呟くと、麻痺して動かないカッツの両腕から滑り落ちた。
 ブラッドマンはくの字の体勢で地面に倒れ、首だけをこちらに向けて、こちらを挑発するように舌を蛇のように出していた。
「これでこの勇者はてめぇのモンじゃなくなった。残念だったなぁ!!」
「貴様、そこまでしてカッツを手に入れたいのか!!」
「それは俺が生きてたらの話だぁ!!残念だったなぁ、この勇者はユダ様のモノよぉ!!」
「まさか……!?」
「じゃあな、アバヨ。先に地獄でまってるぜぇ!!」
そこまで言って、ブラッドマンの目の瞳孔が開いた。
 やはり、ブラッドマンは最初の一撃で事切れていた。そのブラッドマンの亡骸と魂を奴が利用したのだ。
 俺はブラッドマンに構わず、カッツの元に駆け出した。
 ブラッドマンの最期の言葉が正しければ、奴は必ず現れるからだ。その前に針を除去しなければ!!
「カ……ル……さ……」
「待ってろ、今助けてやる!!」
もう少しで針に手が届く、そう思った瞬間黒い影が頭上の木から俺とカッツの間に降り立った。
 黒い影は俺を突き飛ばすと、俺が吹っ飛ばされて地面に倒れた瞬間にカッツの肩の針を握った。
 その影の正体は……一人しかいなかった!!
「まさか、俺の接近をここまで許すとはな。この勇者、よっぽど動揺してたんだな、ヒャハハハハハ」
銀色の髪、狂気に満ちた目、そして人を馬鹿にしたような薄ら笑い、その影の正体はユダだった。
 ユダは機械のハンドルを握るように赤黒い針を動かす。
 その度にカッツの顔が痛みに歪んだ。
「ずっとテメェらを探してたんだ。手の込んだ魔法のせいで手がかりなしだったが、そっちの方からノコノコでてくるとは俺も運がいいぜ」
「俺達を探していた?死霊を封じられたお前が何故……?」
「逃げ出すと思ったか?ワリーが、そっちの方は既に解決済みなんだ。だから、もう一つの脅威を封じにきたんだよ、ヒャハハハハ!!」
この口ぶり、イレーヌ女史やチーコの対死霊用の魔法に対して何らかの対策を練ってきたに違いない。
 だから、もう一つの脅威である『勇者を強制的に使役できる針』を押さえにきたのだろう。
「いやぁ、勇者様が予想外にテンパっててくれてたモンで、イケるかなーと思って仕掛けたわけよ。そしたら思ってたよりもすんなりいっちゃってさぁ」
「貴様!!」
「この際だから教えてやるが、最初はテメェら殺して針だけ奪う算段だったのさ。そしたらブラッドマンの野郎がいきなり面白いこと始めちゃったから、仲間割れでもさせよーかなとか思っちゃったわけよ。そしたら勇者様が来てパニクっちゃってるじゃん?かわゆい~」
ユダはそう言いながら、カッツの頬を人差し指で突付いた。
 当然ながら針の力の効果のために、カッツは身動き一つ取るどころかユダに視線を向けることすらできないでいた。
「だから、針だけじゃなく勇者も一匹いただいて行こうって思ったわけ。途中からは完全アドリブだったんで冷や汗モンだったが、そのおかげで予想外の収穫が手に入った」
ユダはそう勝ち誇ったように言うと、カッツの方に手を廻し、耳元に口を近づけた。
「そういう訳だから、チミは僕の忠実なドレイな訳だ。わかったか、勇者クン?」
ユダの言葉を合図にカッツの体の硬直が解除されたらしく、カッツの体が再びビクンと跳ねた。
「いただいた勇者、大事に使ってやるぜ、ヒャハハハハハ!!」
笑いを堪えようともせず、ユダは勝ち誇ったようにそう宣言した。
 俺は刹那の隙を狙って地面に落ちた剣を拾い、一歩踏み込む。だが、それと同時にユダはサルの様に軽業を見せつけ、樹の枝の上に飛び乗った。
 針を刺されたカッツも一瞬遅れてユダに追随する。
 魔法などの遠距離攻撃を持たない俺に、木の上に逃れた奴を叩き落す術は無かった。
 ユダもそのことを重々承知しているのだろう、逃げもせず馬鹿にするかのように俺のことを見下していた。
「どうしよっかなー♪勇者君の初仕事は、この騎士の始末から始めようか♪」
「な!?」
鼻歌交じりのユダの言葉にカッツの顔が凍った。
 あの針の力は良くわかっている。もし命じられればカッツは容赦なく俺に襲い掛かるだろう。
 そして圧倒的な力の差の前に俺はなす術もなく命を奪われるに違いない。
「てめぇ、調子に乗って……」
「あれれぇ、いいのかなぁ?俺が一言命令さえすれば、騎士様ハンバーグの完成だぜ?」
「グッ!!」
「そうだなぁ、『ユダ様、このクソ勇者の願いを聞き届けてください』って言ったら見逃してやってもいいかな~♪」
ユダの屈辱的な要求にカッツは黙ったまま俯いてしまった。
 ユダもカッツがそんなことを言うはずもないとわかっているのか、ニタニタと笑いながらカッツの頭を撫でている。
「……さい」
「ん?」
「ユダ様、このクソ勇者の願いを聞いてください……」
「聞こえねぇなぁ?」
ユダは嫌味たっぷりに聞き返した。
「ユダ様、このクソ勇者の願いを聞いてくださいっ!!」
空を劈くような大きな声だった。
 それははじめて聞く、カッツの悲鳴にも似た叫びだった。
 思い通りカッツを屈服させたのだからさぞユダは満足しているのだろうと奴の顔をみたが、その予想に反してユダは驚きに満ちた表情をしていた。
 そしてそれはすぐに怒りのそれと様相を変化させていった。
 まるで、思い通りにならない子供が癇癪を起こしているかのような表情だった。
「……なんだよ、そんなにその従者の事がイイのかよ。従者なんて人間のクズだろうが!!そんな奴のためになんで!?」
「……言ってやったんだから約束は守れよ」
「ああ、そうかい!!そんなにこのクソ従者が大切かよ!!てめぇ、戦いすぎて頭でも湧いたのか!?」
ユダの怒声にカッツは何も答えようとはしなかった。
 激情に駆られたユダが何をしでかすか、俺にも大体予想は付いていた。
 奴にとってカッツとの約束など何の意味も成さないはずだから。
「カイルの旦那!!」
唐突に後ろからトウマの声が飛び込んで来る。
 振り向くと、トウマがズボンのポケットから黒い玉状の物をユダに向かって投げようとしているところだった。
 ピンポン玉程度の大きさの黒い玉は一直線にユダに向かって飛んでいった。
 玉はユダ達の目の前で破裂すると、黒い煙を吹き出した。
「チィ!!」
ユダは隣の枝に飛び移って煙を逃れる。
 だが針の制御下にあったカッツは指示なしには動けず、その煙をモロに浴びてしまっていた。
「ゲホッ、ゲホッ!!」
煙の中で咽返るカッツ。
 助けに来てくれたのはありがたいが、味方に当てては元も子もないだろうに……。
 失敗にもめげず、トウマは続けざまに苦無を取り出すと、隣の枝に逃れたユダに向かって投げつける。
 寸分の狂いも無くユダの顔面に向かっていくトウマの苦無。だがユダもそれを危なげも無く回避する。
 ガガッという音と共に幹に苦無が突き刺さる。
「チィ、めんどくさい相手がきやがった!!」
ユダの顔に僅かだが焦りの色が浮かぶ。
 威力はともかく、木の上に届く攻撃を豊富に持つトウマを脅威に感じたのだろう。
 苦無の第二撃をバク転で避けると、ユダはトウマから距離を取るように樹の幹を背にした。
「俺の盾になれ、勇者!!」
ユダが非常に命令を下す。
 その命令に従いカッツは煙の中から飛び出すと、ユダがいる枝に降り立ち、トウマとユダの間に立ちはだかった。
 このまま手裏剣を投げてもカッツに当たるだけだ。
 トウマは苦虫を潰したような表情をして、手裏剣を持っていた手を下げた。
「クソ、何でカッツにあの針が刺さってんだよ!?」
「ま、それはそこの騎士様からジックリ聞きたまえ」
「このバカイル!!後でちゃんと説明してもらうからな!!」
トウマはそう吐き捨てると、俺を貫くような目で睨み付けた。
 情けないが、今の俺はバカイルと呼ばれても仕方が無い失態を犯しているのは重々承知していた。
「ここらが潮時だな。カモン、本日のスペシャルゲストォ!!」
ユダが景気良く指を鳴らす。
 それを合図にして、洞窟の周囲の茂みがガサガサと揺れ始めた。
 最初は風か何かが茂みを揺らしているのかと思った。だが、風に揺れたにしては揺れ方に一貫性がない。
 まるで何かが潜んでいるかのような揺れ方だ。
「今日のゲストは元近所の難民キャンプの皆さんでぇーす!!」
ユダの呼び声に従って、茂みの中から一斉に人間が姿を現した。
 難民キャンプという言葉の通り、姿を表した人々は皆ボロボロの衣服を身に纏っていた。
 土気色の肌、白濁した瞳、両目からは血が流れた後がくっきりと残っていた。
 この手法……スキンヘッドの男を使役した時と同じ状況だ。
「じゃあな。てめぇらはここでゾンビどもと遊んでな!!じきに森中のゾンビどもがテメェらめがけてやってくるだろうよ、ヒャハハハハハ!!勇者、ついてこい!!」
ユダは中指を天につきたて俺を挑発すると、木の枝を伝ってスルスルと森の奥へと消えていった。
 続いてカッツもユダを追うように俺に背を向けた。
「カッツ!!」
「カイルさん、信じてあげられなくてごめんなさい。今度あったときは躊躇なく俺を殺してください」
「何を……」
「ごめんなさい……靴、一緒に買いにいけそうにないです」
背中越しにカッツはそう言い残してユダの跡を追って枝から枝へ飛び移り、深緑の中へと消えていく。
 茂みの中で蠢くアンデッド達を前に、俺はただ見送る事しかできなかった……。
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