鎌使いの文章倉庫

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□ 小説本編その7【カイルと三つ子の勇者】 □

俺は世界を……【カイルと三つ子の勇者・その31】

「トウマ、カッツたちがいる方向は!?」
「この先!!」
レンズを覗き込みながらトウマが森の中の一点を指差す。
 だが、その指の先にはおびただしい数のゾンビ達が俺達の肉を狙って近づいてくる。
 まともにやっていたのでは突破するだけで日が暮れてしまう。
「リク、カイ、クウ!!この方向だ、撃て!!」
俺はトウマの指差した方向を指差してそう叫んだ。
 それを合図にして三人が一斉に弓の弦を手放す。
 一斉に放たれた光の矢は混じりあい、巨大な光の波動となって一直線に突き進んでいく。
 リク達が放った光の矢はゾンビと森の木を飲み込み、粉々に粉砕しながら突き進んでいく。
「うわっ!!」
「ニャ!?」
「きゃ!?」
突然の光と風に、前にいたトウマ達が顔を手で覆う。
 光が引いた後には、地面がえぐれ、草木一本残っていない道が出来上がっていた。
 周囲にいたゾンビたちも衝撃で吹き飛ばされ、待ちあがれないでいる。
 ここを駆け抜けるには今しかなかった。
「今だ、一気に駆け抜けるぞ!!」
俺は皆に指示をすと、盾を構える。先鋒を務めるためだ。
「おおおおおおおお!!」
俺は大声を張り上げながらリク達が作った道を突っ走った。
 既に何体かのゾンビが立ち上がり、俺達の前に立ちふさがったが、かまわず俺は斬り捨てた。
 後ろから残りの皆が付いてくる足音が聞こえる。
「トウマ君、何か大きな音が出る物を!!」
「え?」
イレーヌ女史の要求に、トウマは一瞬キョトンとしてしまっていた。
「ゾンビは死体を無理やり動かしているの。だから奴らの五感はかなり鈍いのよ。比較的まともに機能しているのは聴覚くらい。だから、耳を音で潰せばこっちの足取りは追えないはず!!」
「それならおあつらえ向きなモノがあるぜ!!……ってか、そういう有益な情報は最初におしえてくれぇ!!」
「包囲されて身動きが取れない状況じゃ、音で誤魔化しても意味がないから教えなかっただけよ」
「それは失礼……しましたっ!!」
トウマは謝りながらズボンのポケットを弄っていた。
 そして何かを掴むと、それを引きずり出した。トウマが取り出した物は灰色の皺くちゃな袋のような物だった。
 トウマは今度はポケットからマッチ箱を取り出し、マッチ棒を一本取り出すとマッチの箱を口にくわえる。
 そしてマッチ箱の着火用の部分にマッチ棒の先端をあて、器用に擦り一発で火を起こした。
 トウマはその起こした火を最初に取り出した灰色の袋の中に放り込むと、中を覗き込んで何かを確かめているようだった。
「よし!!」
トウマは何かを確認すると、背後から迫ってくるゾンビ達のほうを向いた。
「皆、今から10つ数えたら俺がいいって言うまで耳塞げよ!!じゃないと、鼓膜破れんぞ!!」
トウマはそう呼びかけながら、踵を返すとゾンビの群れの中心に灰色の袋を投げつける。
 中からガスが発生しているのか、トウマの手を離れた瞬間から灰色の袋は今にも破裂しそうな勢いで膨らんでいた。
 袋が膨張したのを確認してトウマも俺達の元に追いついてくる。
 トウマの言いつけを守ってみんな耳を塞ぎながら走っていた。チーコに至ってはどこから出してきたのかわからない防音用のイヤーマフを装着している。
 トウマが耳を塞げといってから既に5秒経過位していた。
 5、4、3、2、1……。
 0と数えてからすぐに、俺達の背中から強い衝撃と共に、鳥の鳴き声を酷くした様な爆音が森の中に鳴り響いた。
 耳を塞いでいても劈かれるような大きな音が何回も。
 そんな中を俺達は耳を塞ぎながら突っ走った。
 途中ゾンビが現れたらどうしようかと思ったが、袋の音のおかげか不思議と姿を現すことはなかった。
 俺達は数分間、我武者羅に走り続けた。
 10分近く経った頃だろうか。最後の一回らしき小さな音がしたと思ったら、トウマが大丈夫といいたげに耳から手を放した。
 トウマの指示のおかげで鼓膜は無事なようだが、未だにツンという耳鳴りのような音が頭に残っていた。
「トウマ、さっきのは?」
「魔物の鳴き袋に火薬を詰め込んだものだよ。火をつけると、火薬の勢いで魔物の鳴き声が大音量で流れるって代物さ。聴覚で動いている魔物が多いところでナビゲーターが護身用に持ち歩くものなんだ」
「ありとうな、トウマ」
「べ、別に、特別なもんじゃないって。モグリのナビゲーターじゃなきゃどんな奴でも大抵一個は持ってる代物だよ」
俺がお礼を言うと、トウマは照れた様子でそっぽを向いた。
 こういう素直じゃないところは、どことなくカッツに似ている気がする。いや、この世代の男の子の共通の性格といっても過言ではない。
 俺も少し前までは同じようだったからだ。
「とにかく急ぎましょう。さっきの音で周囲のゾンビ集めてしまっている恐れがあるわ」
「逆に言えば、このまま周囲に悟られずに離れる事ができればゾンビをこの場に陽動できる」
「そう考える事もできるわね。そういうポジティブな考え、好きよ」
そう言って微笑むイレーヌ女史の顔を俺は正視する事ができなかった。
 さっきは偉そうな事を考えていたが、どうやら俺もトウマと根の部分はそう大して変わっていないようだった。
 こういうに素直になれない所なんかが全く同じだ。
 まあ、トウマと3つか4つ程度しか年が違わないのだから劇的な差はなくても仕方がないのだが。
 それでも、自分が成長できていない事を痛感してしまい、なんだか歯がゆかった。
「俺が導火線を使って時限式の音爆弾を作る。後はこっそりトンズラこけば、ここはゾンビの保養地になるぜ」
導火線を咥えながら、トウマがVサインをしてみせる。
 どうやら、彼の手の中には先ほどの灰色の袋と導火線が繋がった足跡の時限爆弾が作ってあった。
 導火線が全て燃え、音が鳴り出した頃には我々はここにはいない。音を追ってゾンビ達が到着しても後の祭りという訳だ。
 あとはユダに追いつくことができれば……逸る気持ちを抑えながら俺は森の向こうに思いをはせていた。
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